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どれくらいの空気量から危険か
1965年に発表されたGottliebら1)のレビュー「Venous air embolism」以降も,ヒトにおける空気の致死量(静脈内投与された場合に生命にかかわる異常が起きる量)は正確にはわかっていない。過去の動物実験から,ウサギでは0.55mL/kg2),イヌでは7.5mL/kg3)と報告されている。ヒトでの推定致死量は,医療事故などの検討からは,急速に200〜300mL4,5)が静脈内に投与されると死に至ると考えられている。静脈に侵入したガスが塞栓症を引き起こすには投与速度が問題になる。致死量の空気が静脈内に投与されると,その低い血液溶解度のために肺塞栓症の症状を引き起こし,死に至る。空気の主成分である窒素,酸素は血液内に溶解しにくいため少量でも症状が発生する。静脈系に投与された空気が肺から排泄できるキャパシティを超えて流入すると,肺塞栓の症状に加えて,右心系から左心系へ,そして脳への塞栓を引き起こすことがある6)。患者の呼吸・循環器系の予備力が低下している場合は,少量の空気塞栓でも致命的な障害を引き起こすことがある。動脈内に空気が投与されるとさまざまな臓器で塞栓症状が起こるが,脳が最も問題で,1〜2mLで脳塞栓を起こすとされている。橈骨動脈に留置された観血的動脈ラインから逆行性に脳塞栓を引き起こした症例報告がある7)。Murphyら8)はこの現象が再現されるか研究したが塞栓は発生しなかった。しかし,潜在的なリスク状態として不用意なフラッシュ行為に注意する必要がある。同じガスでも,二酸化炭素は血液に対する溶解度が高く静脈内に投与しても安全とされ,気腹時のガスとして用いられるばかりでなく,放射線領域で造影剤としても用いられている9)。コントラスト剤として用いられる場合,二酸化炭素でも1回の投与が多いと頻脈,不整脈など短期の症状を発生する。
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