Japanese
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Bedside Teaching
トロポニンTによる急性心筋梗塞の診断
Diagnosis for Acute Myocardial Infarction by Troponin-T as a Serum Cardiac Marker
川合 陽子
1
,
早川 恵美子
1
,
渡辺 清明
1
Yohko Kawai
1
,
Emiko Hayakawa
1
,
Kiyoaki Watanabe
1
1慶應義塾大学医学部中央臨床検査部
1Department of Laboratory Medicine, School of Medicine, Keio University
pp.491-496
発行日 2000年5月15日
Published Date 2000/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404902092
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はじめに
急性心筋梗塞(acute myocardial infarction)は,冠動脈の閉塞により灌流領域の心筋に血流障害を来し,心筋虚血が一定時間持続した結果,心筋細胞が壊死に陥る病態である.通常は強い胸痛で発症し,高い死亡率を有する疾患である.特に発症2時間以内の突然死の頻度が高く,発症6時間以内の冠動脈再灌流などの早期治療の有無が予後に多大の影響を及ぼすことが知られている.したがって,急性心筋梗塞の診断と治療は,迅速な対応が求められ,かつ見逃してはならない1).
急性心筋梗塞の診断は,狭心症症状などの前駆症状や突然の胸痛・背部痛などの特徴的な主訴や理学的所見と,心電図や心エコー上の虚血性変化や壊死所見に加え,血清中の酵素の変動によりなされる.しかし,15〜20%の症例は無痛性心筋梗塞といわれる特徴的な胸痛を示さない症例であり,心電図上での特徴的な波形を示さない症例も存在する.特に高齢者や糖尿病患者が増加している昨今,客観的な心筋壊死の指標となる生化学的指標の測定が有用といわれている.生化学的指標としては,クレアチンキナーゼ(CK),CK-MB,AST(GOT),LDの血清酵素およびミオグロビンが日常的な心筋壊死の指標として用いられているが,これらは全身の筋細胞に存在するために,筋肉運動や筋肉内注射でも血清濃度が上昇する.しかも,細胞膜の透過性によっても血中に逸脱するため,必ずしも筋肉の損傷・壊死がなくても血中に出現することが知られている.そのため,心筋傷害により血中に特異的に逸脱し,血清で検出可能な心筋構成(構造)蛋白であるトロポニン測定の臨床応用が近年注目されている1).
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