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はじめに
1961年人類が初めて宇宙へ出て地球周回軌道飛行をしてからわずか39年を経たのみであるが,月面にもその足跡を残すとともに今や国際宇宙ステーションが建設中というように,20世紀後半における宇宙開発は実に急速な展開をみせた.それに伴い人体に対する宇宙環境の影響についての研究も当然ながら発展してきた.なかでも,循環動態とその調節に対する微小重力の影響に関する問題は宇宙医学・生理学の基本的課題として広く関心が寄せられている.その知識は宇宙飛行士を被験者とした観察,動物を用いた観察,および地上実験での観察によって集積されてきたが,実際の宇宙環境での測定結果は主に宇宙飛行士で得られたものである.しかし,過去10年間でそうした資料の蓄積は著しく増加したといわれるものの,それらは未だ機序を知るに十分足るほど体系立てられるまでには至っておらず,解明されたこともまさに氷山の一角に過ぎない1〜11).
こうした未解決になっている原因は,循環系各因子の同一条件下での測定例数がいずれも十分得られていないことや,体系立った動物実験がまだ行われていないことなど種々あるが,微小重力環境への進入とそこからの離脱を境とした時間経過に伴う変化の詳細が明らかになっていないということも大きな原因である.すなわち,1Gと微小重力との環境間における相互移動時の直前直後の動態とその時点から長期間にわたり時間とともに変化して行く動態の詳細がわかっていないのである.動脈圧ひとつとっても完全な連続測定によって経時的変化を明確に示した例はない.このことは,循環系因子の測定を比較的容易と考えがちであるが,宇宙環境での循環動態因子の正確かつ経時的測定が,方法論からしても,また実務作業の観点からしても,如何に困難であるかを示すものとも言えよう.循環動態の理解には心血管系各所について内圧,流量および抵抗の循環力学の三要因を把握することが基本作業であり,内圧と流量を宇宙環境でも簡便かつ正確に連続測定する方法やシステムを工夫開発することが必要である.
本稿では,こうした制約の中で研究されてきた微小重力と血液循環との関係について,テキストなど1〜3)にまとめられてある主としてヒトから得られた結果に関する見解にわれわれの動物実験で得てきた結果12〜16)も二,三加えて,少しく紹介してみたい.
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