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はじめに
生体が全身的な急性の低酸素に曝露されると,組織の低酸素状態を緩和させるために種々の防御反射が起動される.低酸素呼吸反射はその代表的なものであり,呼吸促進と同時またはそれに続く呼吸抑制(低酸素性換気抑制:hypoxic ventila—tory decline:以後,HVDとする)より構成される.進行性低酸素法を用いてPaO2を低下させると,あるレベルまでは換気量は増大するが,それ以下では逆に換気量は減少する(HVD).また,isocapnia条件で中等度の低酸素(PaO2=50mmHg程度)を30分間程度維持すると,最初の2〜3分間で最大となった換気量は徐々に減少し,空気呼吸時より若干大きな値となって安定する(2相性反応1,2)).したがって,低酸素呼吸反射のある時点における反射強度は,低酸素の強度や曝露時間により決定される促進および抑制因子の時間的・空間的バランスによって規定される.脳の切断実験や神経生理学的検討により低酸素呼吸反射(促進および抑制機構)を構成する中枢内神経経路が次第に明らかになり,またそれらの神経経路と関連した神経伝達物質・修飾因子についても理解されるようになった.
HVDの呼吸中枢内での発生機構を理解する考え方に,代謝障害説と神経回路説がある.前者は低酸素によるニューロンの代謝障害により,神経細胞機能が抑制されるという考え方であり,特に神経細胞の膜特性(イオンチャンネル)と低酸素との関連3)が重視されている.しかし,中枢神経系を構成する神経細胞の膜特性は均一ではないので,低酸素によりもたらされる膜特性の変化はそれぞれのニューロンで異なる.後者は低酸素により特定の神経回路がactivationされた結果,抑制性神経伝達の増強や興奮性神経伝達の減弱が発現し,HVDが誘導されるという考え方である.したがって,主な研究課題はこれに関する神経経路の同定とそれに関与する神経伝達物質・修飾因子の同定,およびそのシナプス伝達への低酸素による影響を明らかにすることである.
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