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はじめに
空気呼吸時の動脈血PO2(PaO2)は約90 mmHgである。実際に好気的代謝活動が行われているミトコンドリァのPO2は3.8〜22.5mmHg (毛細血管から0)距離と血流による)であり,PaO2との間に著しい較差がある。好気的代謝に必要最低限のミトコンドリア内Po2は1mmHgとされている(Pasteur point)。ヒトを含めた内温性動物(高代謝または温血動物)では動脈血Po2の低下などによるO2供給不足で好気的代謝が障害されると,各臓器の機能,特に脳機能が低下するので危険である。一般に内頸静脈血PO2(脳組織PO2を反映する)が急性に20mmHg以下になると意識が消失する。PaO2 27 mmHg以下の低O2血症では脳血管拡張による血流増加があっても脳組織のhypoxiaが生じる。ニューロン表面のPO2が約20 mmHg以下ではニューロン機能が障害されるという。急性低O2血症時には以下の各種の代償機構が作動し,脳組織のhypoxiaを改善する。①主に末梢化学受容器刺激を介する換気量増加,②心拍出量増大,脳血管拡張による脳血流の増加と維持,③交感神経活動増加,④併発するacidosisによるhemoglobin解離曲線の右偏,⑤嫌気的代償の効率増加,⑥低O2ガス吸入の場合には肺血流分布の改善などである。ここで問題になるのは①の低O2による呼吸促進効果が持続しない点である。急性の低O2暴露時には,呼吸促進に続いて換気量は次策に減少する。末梢化学受容器からの求心路(頸動脈洞神経)を切断すると,特に麻酔下では呼吸抑制のみがみられる。これら低O2時の換気量減少をHypoxic Ventilatory Depression(HVD)と呼ぶ。HVDは低O2—換気応答の評価に影響するはずである。生体のホメオスターシスからみると,低O2暴露時の"障害"の一つとしてHVDを考えることもできる。しかし,HVDは程度の差はあっても覚醒時,麻酔下のヒトや実験動物で広く認められる現象であり,重要な生体反応の一つと考えられる。したがってその意義を考察する必要がある。
本稿では,急性低02暴露時のHVDの様相,影響する因子,本態などについて最近までの研究成果を概説する。
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