Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
米国のEnvironmental Protection Agency(EPA:環境保護庁)は,1997年7月18日のFederal Register(官報)1)にParticulate Matter(PM:粒子状物質)のNational Ambient AirQuality Standard[NAAQS:国家環境大気質基準(環境基準)]を告示し,そのなかで,従来定められていたPM10(粒径が10μm以下の粒子)以外に,PM2.5(粒径が2.5μm以下の粒子)の基準を新しく示した.米国のPMの環境基準は,1969年に最初のCriteria Document(CD:大気汚染物質の公衆の健康と福祉に及ぼす確認できる影響全てについて,最新の科学的知見を正確に反映させ,その種類と範囲を示したもの)が発行され,それに基づいて1971年に,初めてPMの基準として,Total Suspended Particles(TSP:総浮遊粒子状物質)を指標として24時間値を260μg/m3,年平均値を75μg/m3と定めた.その後,EPAは,1979年にPMのCDを改訂し,1987年に,最初の基準の改定を公布し,粒子の指標をTSPからPM10に変更し,24時間値を150μg/m3,年平均値を50μg/m3と設定した.これは,TSPの測定にHigh Volume Samplerを使用するために,人が吸入しないような数10μmのような大きな粒子を捕集するために,人の健康影響により深く係る吸入性の粒径である10μm以下の粒子,つまりPM10の基準にするほうが,公衆の健康保護の観点から,より妥当であると考えられたからである.その後,以下に述べるようにハーバード大学の米国東部の六都市の調査(六都市調査)を中心にした報告2)を含め多くの疫学調査結果が,現在の大気中で記録されるPM濃度が呼吸器や循環器の種々の質の健康指標に悪影響を及ぼしていることを示した.
American Lung Association(米国肺学会)は,1994年2月に,「PMに関する新しい疫学知見が蓄積されてきているのに,EPAは,クライテリアの見直し作業と環境基準の改訂の作業の義務を怠っている」と,アリゾナ地区の地方裁判所に訴訟をおこしたのである.そこで裁判所は,EPAに,1996年6月30日までに,PMの環境基準のレビューの改訂を完成させ,基準の決定の提案を公表し,1997年1月31日までに官報に最終決定を公表するように命じた.EPAは,これに従い,1996年4月にCD3)を,1996年7月にスタッフ・ペーパー4)(CDは膨大な資料集なので,行政官などが基準設定にあたって役に立つような重要な知見を要約したもの)を刊行した.そして,1997年7月に,Federal Registerに,現行の基準を改訂し,従来のPM10の基準に加え, PM2.5という新しい粒径について,年平均値15μg/m3と24時間値65μg/m3の二つの新しい環境基準を発表したのである.
本稿は,このCD,スタッフ・ペーパーおよびFederal Registerを中心に,PM2.5に係る問題を解説した.
Copyright © 1999, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.