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日本の医療保険制度は,制度として極めて高度のレベルにある.国民皆保険であり,国民の全てが何割かの医療費を負担するだけで,すべからく高度の医療が受けられる.この制度のみからみれば,日本は社会主義国家かと思うほどである.この制度による医療を維持するために,年間27兆円が必要であり,国はその費用を抑えるのに必死である.しかし,日本は世界一の長寿国になり,この医療費が高いかどうかは意見の分かれるところであろう.米国では,大きな病気になれば,医療費に莫大な費用がかかるため,貯金を使い果たすと聞く.金持ちは,それでも高度医療が受けられるが,低所得者はそれこそ大変である.クリントン政権は日本風の保険制度を導入しようとしているが,一向にはかどっていない.米国ではお金の切れ目が命の切れ目である.もちろん,米国にもメディケアという公的保険があるが,65歳以上の老人が対象となる.しかも,患者の自己負担が高く,入院して最初の60日までは期間に関係なく736ドル,61〜90日は1日184ドル,91〜150日は1日368ドルもかかり,151日以上は全額自己負担となる.さらに,これら以外に医師費用として,医師診療報酬の20%を支払う必要がある.
日本での保険制度に話を戻すことにする.たとえば,狭心症の疑いの患者をみた場合,まず心電図(150点)をとり,必要ならば負荷心電図(600点)を行い,続いて心筋シンチグラム(7200点)を行うことになる.もしこれらの結果で虚血性心疾患の疑いがあれば冠動脈造影を施行するながれが一般的であろう.しかし,負荷心電図の感度,特異度がそれぞれ60%,70%と低いことから,これを割愛しすぐに心筋シンチグラムへ移るながれもありうる.一方,感度,特異度とも85%ぐらいと信頼度の高い負荷心エコー図で心筋シンチグラムの代用とするながれもある(心エコー図として800点).一方,女性の虚血性心疾患の診断特異度は,ドブタミン負荷心エコー図のほうが心筋シンチグラムより優れている.したがって,女性で狭心症が疑われる患者では,ドブタミン負荷心エコー図を行うのが正しい.以⊥のごとく,科学的な裏付けからcost effectivenessを考えて行くと,負荷心電図を行わず,心電図記録から直ちにドブタミン負荷心エコー図を選ぶ診断のながれが最適である.このながれで診断を行うと,心電図150点+ドブタミン負荷心エコー図800点,計950点で狭心症の診断が行えることになる.したがって,政府も速やかに,このドブタミン負荷心エコー図を保険制度の枠内に取り入れるのが得策と思われる.
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