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世界各国で行われている肺循環に関する研究は枚挙にいとまがないが,その研究の動向は,ほぼ10年毎に肺循環に関する新しいテーマを取り上げているAspen Lung Conferenceの流れのなかにうかがうことができる.1962年に開催された最初の肺循環に関するカンファレンスの主題をみると低酸素性肺血管攣縮の機序と胎児肺の血流の調節である.1976年は肺循環におけるヒスタミン受容体と内皮細胞の代謝機能を取り上げており,1987年の主題は肺損傷時の肺血管トーヌス調節に与る細胞の相互作用と血管のリモデリングおよび血管新生である.それまでの流れのなかに,生理学的解析に新たに分子生物学的手法が加わる気配が感じられるが,1997年に開催されたカンファレンスでは肺高血圧の成因を細胞学的および分子生物学的に解析することを主題としている.56演題が発表されているが,そのなかで,低酸素による血管反応に焦点をあて研究の動向を深ってみたい.
低酸素は肺血管平滑筋に対して一過性の反応を惹起するほか,血管内皮細胞に対してはより長期にわたる影響を与えることが知られている.前者は低酸素性肺血管攣縮であり,低酸素刺激が平滑筋細胞における外向きのK+電流を阻害し,細胞膜を脱分極して,電位依存性Ca++チャネルを介する細胞内へのCa++の流入を増加する機序が重要視されている.一方,血管内皮細胞は低酸素刺激によって,エンドセリン(ET−1),eNOS(en—dothelial NO synthase),PDGF-B platelet—derived growth factor-B),VEGF(vascular en—dothelial growth factor)などを発現し,血管攣縮を修飾するとともに,平滑筋細胞の増殖を促進する.エンドセリンは強力な血管攣縮物質であるほか,平滑筋増殖を刺激することが知られており,一方,NOは血管拡張作用のほか,平滑筋増殖を抑制する作用がある.肺動脈平滑筋の増殖は肺血管のリモデリングとして重要であるが,低酸素による増殖にはPKC(protein kinase C)を介する機序が必要であることが報告されている.興味ある報告は,低酸素下で肺血管平滑筋細胞においてHO-1(hemoxygenase-1)遺伝子が発現することである.つまり,平滑筋由来のCOが肺血管のトーヌスを調節する可能性である.COがguanylcyclaseを活性化して細胞内のcGMPを高める作用があるからであり,さらに,COは低酸素刺激による内皮細胞のET-1やPDGF-BおよびVEGF遺伝子の発現を抑制することによって,血管攣縮を弱め,平滑筋細胞の増殖を抑制する.
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