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避妊の研究動向
広井 正彦
1
1山形大学産科婦人科
pp.281
発行日 1976年4月10日
Published Date 1976/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409205401
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石油ショックや環境汚染に端を発し,人件費の高騰などもあり,ここ数年来アメリカ経済も必ずしも繁栄の一途というわけにはいかず,緊縮財政が強いられてきている。そのあおりをくつて,宇宙開発や妊孕性の研究を主とした生殖学も,その研究範囲の減少を余儀なくされてくるようになつた。
宇宙科学はいわゆるアポロ10年計画なるものが推進され,その計画通りに進み10年後には人類が初めて月を踏破した。しかしこと人間の研究になると,癌の消滅のために過去10年間に多額の研究費を注いだにもかかわらず,死亡率の改善は少しもなされていない。これはあるアメリカの高官が議会で指摘したそうである。したがつて宇宙よりも地球自身,人間自身をみなおそうという傾向になつてきたのはよいことである。しかし,その反面,経口避妊薬は今年のアメリカ不妊学会の報告によると,既婚婦人の半数以上が用いているといわれ,問題点が多少残るとしてもほぼ完成の域に達したとして,リプロダクションの研究費を削減したことは淋しい限りである。したがつて不況といわれるアメリカ経済の中でも,リプロダクション研究の衰退と反比例して,癌などの悪性腫瘍の研究は脚光を浴びてきている。しかし,とくに現実の病める者の研究と同時に,健康な生活を維持する上でも重要なリプロダクションの研究にも充分眼を注がなければならないことはいうまでもないことである。
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