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冠動脈疾患の治療には,薬物療法や冠血行再建術があり,その選択はその施設の判断で行われているのが現状である.冠動脈に狭窄病変が存在すると経皮的冠動脈形成術を治療の第1選択として実施している施設がみられる.その点については以前から問題視されているが,基本とすべき薬物療法がおろそかにされているといえる.いずれの治療法を選択するにしても薬物療法を避けることができず,経皮的冠動脈形成術を行っても狭心症治療薬は減るどころかむしろ増加し,再狭窄や血栓形成の予防のために薬剤の追加を行っているのが実状である.できるだけ少ない薬剤で効果的な治療ができないものかと思う.その治療内容をみると,数種類の狭心症治療薬を併用し,患者の臨床症状が少しでも認められると,さらに他の薬剤をためらいもなく併用することをしばしば見かける.薬物療法の基本的な考えを述べたいと思う.
狭心症治療薬は厳しい臨床試験を経て認可されるが,どの薬剤も「抗狭心症薬の臨床評価法に関するガイドライン」に従って臨床開発試験が行われている.そのガイドラインにおける患者選択基準には,発作回数が1週間に4回以上で,しかも運動負荷試験にて有意なST下降を認める症例を対象としており,現在の治療指針では経皮的冠動脈形成術の適応になるハイリスク症例ということができる.薬剤の有効性はこれらの症例における試験薬投与前後の発作回数の推移と運動負荷試験成績の両者の結果から評価されるが,その有効率は70%前後である.とくに,近年市販されている1日1回投与のβ遮断薬や持効性カルシウム拮抗薬の有効率は,この値に近い.この数値の意味するところは,試験薬剤の投与によって狭心症患者の10人中,7人に投与前の発作回数が半数以下に減少したことを示している.したがって,十分効果が認められなかったのは,残りの3割ということになり,治療の対象となる狭心症患者は,この薬剤の単独投与によって狭心痛をコントロールでき,運動負荷試験成績も改善されると考えてよい.しかし,現実には,投与量を多くしたり,他の狭心症治療薬の併用を行っている.とくに,経皮的冠動脈形成術を施行した後で,心筋虚血の改善がみられても狭心症治療薬は減量せずにそのまま投与している.
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