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はじめに—問題の所在
臨床研究においてインフォームド・コンセントの取得があることは,必ずしも被験者の人権が尊重されていることを意味しない.にもかかわらず,被験者の人権はインフォームド・コンセントにより保護されるという考え方が専門家の間に少なくない.
この考え方は,第一に,インフォームド・コンセントに本来の守備範囲外の役割を担わせる考え方に結びつく.すなわち,臨床研究におけるインフォームド・コンセントがよって立つ基礎の問題と,インフォームド・コンセントそれ自体の問題とを混同して,インフォームド・コンセントにこの基礎の諸問題を解決させる過大な役割まで負担させる考え方に結びつくのである.この問題点を,被験者の人権とは何か,人権はどのような構造を有しているかを吟味し,被験者の人権の複合構造の中にインフォームド・コンセントを正しく位置付けることによって検討したい.
また,この考え方は,第二に,インフォームド・コンセント原則をとらえるに際し,被験者の人権としての,個人のためのケアを求める権利を無視しがちである.臨床研究において研究者の説明・被験者の理解には3つのレベル,すなわち臨床研究一般のレベル,具体的臨床研究のレベル,および具体的被験者のレベルがあると思われるが,このうち第3の具体的被験者のレベルでの臨床研究の実験性,危険性,他の選択肢などについての研究者の説明および被験者の理解がインフォームド・コンセントの要素であることを見落してしまうのである.この問題点につき,個人のためのケアを求める権利に基づいて,臨床研究におけるインフォームド・コンセント原則の要求事項は何かを再検討したい.
インフォームド・コンセントとは,患者が自己の症状,医療行為の目的,方法,危険性,他の選択肢などにつき公正かつ十分な説明を受け,理解したうえで自発的に選択・同意・拒否できるという原則をいう.このインフォームド・コンセントと,医プロフェッションが了解する「説明と同意」とは乖離していると思われるが,両者の距離を少しでも縮めようというのが本稿のもう一つの目的である.
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