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海外における臨床試験の動向
大規模臨床試験は薬剤の治療効果の評価に必須の検定法となっているが,現在のような認識に至るまでには,それなりの歴史的経緯がある.従来の臨床家の経験には偏見が多分に加味されており,症状や機能に対する短期的効果が必ずしも長期予後を反映しないことがわかってきた.循環器疾患を例にとると,慢性心不全に対する経口強心薬が短期的には心機能および症状の改善をもたらすが,長期予後をかえって悪化させる事実はその良い例である.また,高血圧による心肥大の退縮に対し,各種降圧薬が異なる効果を示すこと,降圧薬が脳卒中や心筋梗塞の抑制に対して同様の効果を発揮しないことなど,長期予後やイベントの発生に対して臨床疫学的推論や薬理学的効果が必ずしも演繹的に予後を予測しないことが明らかになってきたためである.すなわち,疾患の一次予防や二次予防を目的とする場合,リスクファクターのコントロールのための治療が必ずしも効果的に疾病の発症を抑制できない場合があることが認められるようになってきたわけである.
この命題を解決するには,イベント(事故)の発生に対する統計学的論理性(科学性)をもった介入試験が必要となる.イベントの発生は,死亡事故の場合mortalityの評価となり,疾患の発症の場合,morbidityの評価となるが,通常これらの発生率はあまり高くないため,試験対象者は相応の数が必要となり大規模臨床試験が唯一の解決法となる.科学性を考えた場合,プラセボ対照二重盲検試験が最も論理的であるため,予め決めたプロトコールに従って前向き(prospective)試験が実施される.しかし,この場合に種々の制約が生じるため試験の倫理性がしばしば問題となる.すなわち,科学性と倫理性に細心の注意を払いながら実施されなければならないわけで少なからず困難がつきまとう.
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