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■最近の動向 近年,失神が心臓病領域を中心に注目を集めている.この理由には,第一に疫学的背景(失神患者数が多いこと),第二にティルトテストの急速な普及があげられる.神経起因性失神(neurally mediated syncope)は,vasovagal syncope,carotid sinus syndrome,situational syncopeの三者を包括し,「神経を介して」発症する失神である.ティルトテストは本来vasovagal syncopeの診断に用いる検査であるが,carotid sinus syndromeの検索にも用いられるようになってきた.
過去2年の文献を検索すると,一般医学,内科,心臓病学の多くの臨床雑誌に失神のレビューや原著が掲載され,「失神の診断と治療」が医学の一分野として定着し,成熟しつつあることが推測される.テイルトテストの陽性率や再現性,isoproterenol使用の可否を論じた研究は,すでにデータが出尽くした感もあり最近は下火である.その代わりに,失神患者の長期経過観察,すなわち薬物治療や自然歴などが報告されるようになった.従来よりβ遮断薬が第一選択であるが,テイルトテスト反応性により失神時の心拍数上昇が軽度であれば効果を期待できないとする報告も認められる.すなわち,薬物治療も円熟期に入った.一方,失神の病態解析についても多くの研究が行われ,心拍数変動を用いた自律神経機能の解析,圧受容体反射の過敏性,バゾプレッシン受容体の関与,血漿容量の低下,などの興味深い知見が認められる.失神の動物モデルとしては低容量ショックが用いられ,一方,テイルトテストはreversible hypovolemic shockとして,人の低容量ショックのモデルに用いられている.失神による交通外傷などの事故,てんかんと誤診されていた失神など,臨床的にも重要な知見が得られている.
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