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肺拡散能力(DL)測定法の進歩は19世紀末から20世紀初期にかけて展開された英国—デンマーク論争によってもたらされたと言っても過言ではない1).デンマークの偉大な生理学者Bohr,英国のHaldaneらはO2,CO2が肺胞上皮によって濃度勾配に抗して分泌されると考えた(分泌説).一方,Bohrの弟子であるデンマークのKrogh,英国のBarcroftらは肺における生理的ガスの移動は受動的拡散によってもたらされるとした(拡散説).100年後の現在においては,測定手法の進歩によってKroghの拡散説が基本的に正しいことが証明されたが,低濃度の一酸化炭素(CO)を用いた近代的肺拡散能力値(DLco)測定の原理も分泌説—拡散説論議に決着をつけるためにKroghの妻Marie Kroghが1915年に開発したものである2).肺胞気と肺毛細管血液における指標ガス分圧平衡を解析するのに有用なBohr積分法はやはり上記論争に決着をつけ自らの分泌説の正しさを証明するためにBohrが1909年に発表したものである3).DLcoはCO濃度の測定が困難であったため20世紀前半には忘れられた検査法であったが,赤外線分析法が医学界で使用されるようになった1950年代以降優れた臨床検査法として見直された4).
肺拡散能力値は以上のように100年以上の歴史を有する検査法であり,近年の呼吸生理学の発展に伴い種々の異なった測定法が開発された.さらにそれらが反映する機能的,形態的異常因子に関しても膨大な実験的・臨床的データが積み重ねられてきたが,今なお肺拡散能力値が如何なる異常を検出しているかに関しては確実な結論が得られていない.肺拡散能力値は肺胞膜の形態異常を“拡散”という現象を介して検出するために測定されるが,肺内換気(VA),血流(Q),肺気量(VA)の不均等分布,さらには指標ガスと肺毛細管血ヘモグロビン(Hb)との結合速度など種々複雑な因子によって影響され,純粋な拡散によって規定される値を表すものではない.
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