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はじめに
チェーン-ストークス呼吸を来す代表的な疾患は脳血管障害と心不全であるが,健常人においても強制過換気後や高所登山時にしばしば認められ,その機序は化学性呼吸調節系の失調と考えられている1).中枢神経疾患患者において,時に一見チェーンー-ストークス呼吸に似たあえぎ呼吸を認めるが,これは脳幹呼吸ニューロンの広範な障害でも起こり得るもので,規則的に1回換気量・呼吸数が漸減漸増するチェーン-ストークス呼吸とは区別されるべきものである.化学性呼吸調節系の失調の原因を呼吸中枢そのものに求めるか循環時間の遅延に求めるかは過去に盛んに議論され,それぞれを支持するデータが発表されている2,3).しかし,1960年代に自動制御理論の呼吸制御系への応用が盛んに行われるようになってからは,両説は相矛盾しない形で総合的に理解されるようになった.さらに,通常は血液ガス値の恒常性を保つよう安定した呼吸パターンを作り出している中枢呼吸制御系がネガティブ・フィードバック・ループを介して周期性の呼吸パターンも生じ得ることが明らかとなってきた4).
線形制御理論では,呼吸中枢の化学感受性が亢進することによる過剰な応答が制御系の不安定性を引き起こすと説明される.しかしさらに,non-REM睡眠期において低炭酸ガスに対する無呼吸閾値が現れることや換気に対する覚醒刺激が消失することで,呼吸中枢の化学感受性が低下している場合にも周期性呼吸が生じ得る.自動制御理論では制御系の安定性はループ・ゲイン(loopgain)の周波数特性で総合的に評価される.CO2に対するプラント(効果器)ゲインは,換気量変化に対するPaCO2の単位変化(ΔPaCO2/ΔVE)で定義される.コントローラゲインは,PaCO2の単位変化に対する換気量変化(ΔVE/ΔPaCO2)で定義される.プラントゲインとコントローラゲインの積はループゲインと呼ばれ,フィードバックループの安定性を決定する重要な因子である.これらの諸量は,周波数に応じて変化する.一般に位相遅れ180°の時のループゲインが1以上になるとシステムは不安定になり,漸増漸減型の周期性呼吸を示すようになる.したがって,呼吸中枢の化学感受性(コントローラゲイン)がループゲインに影響することは言うまでもないが,プラントゲインに関与する機能的残気量・血中CO2レベル,あるいは循環時間もループゲインに影響を与える重要な因子である.本稿では理解を容易にするためループ・ゲインに影響を及ぼす個々の要因について述べる.
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