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特集 チェーン-ストークス呼吸
チェーン-ストークス呼吸の歴史的背景
Historical Background of Cheyne-Stokes Breathing
有田 秀穂
1
Hideho Arita
1
1東邦大学医学部第一生理
1Department of Physiology I, School of Medicine, Toho University
pp.425-429
発行日 1995年5月15日
Published Date 1995/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404901046
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チェーン-ストークス呼吸は,19世紀に活躍したアイルランドの二人の著明な医師,Cheyne JAとStokes Wを記念して命名された異常呼吸である.その特微は,呼吸の亢進の後,次第に減弱し,ついには無呼吸となり,再び,呼吸の亢進が出現するという,周期的な変化が繰り返されるところにある.
このような異常呼吸パターンは,古代ギリシャのヒポクラテス全集の中に既に発見できる.ヒポクラテス「古い医術について」(小川政恭訳,岩波文庫)の中に次のような症例が記載されている.「第十五例.タソス島のデレアルケスの妻.心痛の後,悪寒を伴う発熱があった.彼女は最初から寝具にくるまり,終始沈黙していて,手探りしたり,ひきむしったり,引っ掻いたり,髪の毛を引き剥いたり,泣くかと思うとまた笑った.安眠できなかった.腸から下剤を与えたが,全く便通がなく,催促されても少量しか水を飲まなかった.尿は希薄で,少量.手で触れてみると微熱があった.四肢は冷たかった.第九日目.しきりにうわごとを言い,再び沈黙におちいった.第十四日目.呼吸は断続的で,しばらくたって呼吸は大きく,間隔が長くなり,また,速く短くなった.第十七日目(省略).第二十日目.口かずが多くなり,そして再び静かになった.その後,無言,呼吸は速い.第二十一日目.死亡.この患者にあっては,終始呼吸は断続的で,大きかった.周囲への関心を全く失い,常に寝具にくるまっていた.口かずが多くなるか沈黙しどうしでいるかのどちらかであった.」(流行病 第三巻).この患者は,腸チフスのような持続する発熱の末期症状を呈していると考えられるが,チェーン-ストークス呼吸についての見事な描写である.
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