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■最近の動向 ARDS(acute respiratory distress syndrome)は,胸部X線写真上急速に進む両側びまん性浸潤影と通常の酸素療法には反応しない重篤な低酸素血症を特徴とする症候群である.多くはそれまで健康であった成人に外傷,手術,敗血症,重篤な感染巣などを契機として起こる.近年の細胞・分子生物学的研究により,その病態に好中球エラスターゼを代表する蛋白分解酵素,e−,l-selectinなどの接着因子,TNF-αやIL-8などの炎症性サイトカインの関与が次々に明らかにされてきた.しかし,それぞれの因子に対する抑制因子や抗体投与などの新しい治療の試みにもかかわらず,臨床的有効性が確認された薬物療法はなく,死亡率も依然高い.
さて,MIF(macrophage migration inhibitory factor)は,1966年に活性化Tリンパ球から分泌される活性物質として発見されたもので,炎症部位におけるマクロファージ遊走抑制因子として知られていた.しかし,1989年にヒトのMIFが蛋白として同定され遺伝子構造が決定された後再評価され,今では全く新しいタイプの炎症性サイトカインとして脚光を浴びている.ここでは,MIFに関する3編の論文を紹介する.内因性糖質ステロイドのもつ抗炎症作用に対して,それを抑制するというユニークな作用を初めて証明した論文,エンドトキシン血症で肺を含む多くの臓器でMIFの存在とmRMAの発現亢進を認めた論文,そして最後にヒトのARDSにおいてその病態に重要な関わりがあることを示唆した論文の3編である.以上の論文はMIFを標的とした戦略がARDSに対する新しい治療法として登場する可能性があることを期待させるものである.
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