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気管支喘息の病態に最も重要な分子というとIgEを挙げる人が多いと思う.IgEとマスト細胞の活性化が気管支喘息の基本病態と理解され,30年前は多くの製薬会社がマスト細胞の活性化を抑制する薬剤を上市し,多くは消えていった歴史がある.その後わが国においては吸入ステロイド薬や吸入ステロイド薬・長時間作用型β2刺激薬の配合剤の普及もあり,喘息発作による入院も著しく低下し,喘息コントロールはめざましく改善された.いつしか臨床の現場からIgEやマスト細胞への思いが薄れていきつつあった.しかしあらためてIgEとマスト細胞の活性化という基本病態を臨床の場で強く印象付けられたのは,重症喘息患者に対する抗IgE治療の劇的な効果であった.時代が変わってもアレルギー喘息患者においてIgEとマスト細胞の活性化という基本病態は厳然と存在し,われわれは吸入ステロイド薬などで症状をコントロールしているという構図を強く感じさせられた.やはり疾患病態の理解に,分子論的な解明が重要である.
アレルギー性気道炎症の解明に,Th1/Th2バランスによる分子論的な解析は大きな進歩であった.その後,TregやTh17リンパ球の活性化経路が解明され,これまでその機序が不明であった気管支喘息における現象も理解が可能となった.さらに,IL-33やthymic stromal lymphopoietin(TSLP)などの自然免疫分子やこれらの分子に活性化される2型innate lymphoid cell(ILC2)の発見は,IgEが関与しないアレルギー性炎症の理解に重要である.気管支喘息には,血清IgEの高値やアレルゲン特異的IgEが関与するアトピー性喘息と血清IgEの低値およびアレルゲンの関与が不明の非アトピー性喘息の存在があり,これまで明らかにされてきた感作により誘導されたIgEによる獲得免疫では非アトピー性喘息の病態を説明できなかった.気道上皮細胞がウイルス感染やタバコ煙などに刺激され,IL-33,IL-25,TSLPなどの自然免疫分子が遊離され,これらの分子がILC2を刺激して,IL-5,IL-13などのTh2サイトカイン産生,遊離を誘導する経路が明らかにされた.この経路は,IgEを介さずに,気道の好酸球炎症が生ずる機序をうまく説明する.また近年,Th17細胞を介したアレルギー性炎症経路が明らかにされ,好酸球に加え,好中球も一部関与する喘息病態に関わる免疫経路と考えられている.喫煙は気管支喘息の病態を悪化させる因子であるが,タバコ煙粒子の免疫刺激にTh17細胞を介した経路が考えられている.これまで臨床の現場で気管支喘息患者によくみられる気道感染や喫煙曝露で喘息発作が誘発される現象などが,上記の免疫分子論的な解析から理解できるようになった気がする.
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