書評
—和泉 徹 総監修 石川三衛,河原克雅,南学正臣,福井 博 編—浮腫〜塩・水過剰,新たな展開とは?〜
永井 良三
1
1自治医科大学
pp.329
発行日 2015年4月15日
Published Date 2015/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404205679
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西欧医学は古代ギリシャに始まる.当時,病因論には二説あった.ひとつは古代インドから伝えられた四大説である.これは仏教医学でも同様である.万物は地,水,火,風から構成され,生体におけるこれらのバランスの異常が病気を起こすとする考えである.例えば,水腫病は水の異常,炎症は火の異常による.これに異を唱えたのがヒポクラテス学派だった.彼らは,病気の原因は体液の混和の異常であると考えた(体液病理学).体液病理学は長く医学の基本だった.しかし約150年前,ドイツのウィルヒョウの細胞病理学によって否定された.しかし抗血清療法の開発やホルモンの発見により復活する.現在の病因論は,四大,体液病理学,細胞病理学のすべてを基盤としているといっても過言ではない.
本書は,浮腫の生理学,病態,臨床を取り上げ,体液病理学と細胞病理学,そしてアートとしての臨床医学をカバーした好書である.とくに医学の歴史を考えると,こうした複数の視点から浮腫を論ずることの重要性を再認識させられる.近年の医学研究は,ややもすると分子レベルの分析に偏向しがちである.分子は生体の構成要素であり,これは「四大」の今日的理解であるが,それのみで生体恒常性を語ることはできない.したがって浮腫についても,分子生物学だけでなく,器官や個体の機能と制御機構の全体像を理解し,臨床実践までを語らなければならない.
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