- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
概念
狭心症様の胸痛を訴える患者に冠動脈造影検査を施行しても,胸痛の原因となる器質的狭窄や冠攣縮を認めないことがしばしばある。当院で,1987〜1988年の過去2年間に胸痛の精査目的で入院し,冠動脈造影検査を受けた患者345例中(心筋症,高血圧性心疾患,弁膜症は除外),造影上正常冠動脈像を呈し,ergonovine負荷試験でも冠攣縮が認められなかった症例は56例(16%)であった。このような場合,臨床的には"atypical chestpain","chest pain syndrome"などの病名の下に経過観察とすることが多い。また,これらの症候群の胸痛の原因としては,i)心筋内小動脈疾患(intramyocardial small-vessel disease)1),ii)乳酸代謝異常2),iii)血小板凝集能異常3),iv)冠予備能異常4〜7),などが考えられているが詳細は不明である。左室肥大を伴う高血圧症や肥大型心筋症では,心筋内小動脈病変による心筋虚血が胸痛の原因となっていることが多いが8,9),器質的心疾患がない場合にはその病因は多様である。最近,Cannonら10)は,狭心症様の胸痛があるにもかかわらず,冠動脈造影検査は正常で,器質的心疾患を認めない所謂"chest pain syndrome"の中には,心筋内微小冠動脈の血管トーヌス異常(拡張予備能低下と血管抵抗増大)が原因となり,心筋虚血と胸痛を示す症例のあることを報告した。そして,彼らはこのような病態を"microvascular angina"と命名したが,その発症機序の詳細については不明な点が多い。本疾患では,胸痛出現時に冠動脈造影検査で視認できる血管には狭窄や攣縮を認めないことより,造影では見えない非常に細い心筋内微小血管に異常が生じていると考えられる。
Copyright © 1989, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.