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周産期医学と先天性心疾患
胎児医療は個別疾患対策の時代に入った。個別疾患とはつい最近まで,奇形と一言で表現されていた多くの種類の胎児の病気のそれぞれを呼ぶ。胎児医療とそれに続く新生児医療を合わせて周産期医療と呼ぶ。これは単にヒトの生殖過程の一時期に対する医療という意味ではなく,生殖医療の思想的変化として生まれてきた言葉である。古典的産科学は母親の生命の安全と健康を守るためにあった。古典産科学がほとんどその目的を達した時,医療の対象が胎児・新生児へと移行した。先進工業諸国における出生率の低下は社会的単位でも個人の単位でも一人の子供に対する期待を増大せしめた。先進工業諸国のみならず,開発途上国においても,食料問題も含めた人口対策に低い周産期死亡率(1,000生産に対する妊娠28週以後,もしくは1,000g以上の児の死産数と早期新生児死亡数の割合)の保証は欠くことができない。周産期死亡率の高い国家や地域で産児制限などの人口抑制政策は受け入れられるはずがない。特に家族労働に期待がかけられる農業地域ではその傾向が強いであろう。さてこのような要求から発生した周産期医学であるが,当初は分娩中の胎児の低酸素症を発見することから始まった。同時に早産未熟児に対する医学も進歩した。現在もし妊娠26週で胎児が死亡の危機に直面したら,帝王切開をして児の救命を計ろうとするてとが常識となりつつある。胎児心拍数図の普及と早産未熟児に対する呼吸管理の進歩は日本の周産期死亡率を1,000に対し10以下にまで低下せしめた。この状態までくると周産期死亡の半数以上が奇形と呼ばれる胎児固有の病気となった。もちろんこの中には絶対的に予後不良の疾患もある。しかし中には適切な胎児期・新生児期の管理を行えば,十分な予後を期待できる疾患もある。特に先天性心疾患は予後の点でも,診断の可能性の点でも周産期医療の次の対象としてクロ—ズアップされてきた。先天性心疾患に対する内科的,外科的治療の側から考えてみよう。診断と治療の技術的進歩はその対象となる患者の年齢をどんどん若くしていった。いまやその時期は出生直後にまで及び,ここに小児循環器医療と周産期医療が手を結ぶ時代となった。国立循環器病センターに周産期科が設立された一つの理由がにこにある。以上の理由から,もし胎児医学が臓器別の医学の道を歩むとしたら心疾患が最初になるだろうと早くから予測されていた。超音波断層法やドプラ法の技術的発達は実際臨床面でこの考えを現実のものとしつつある1)。
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