巻頭言
降圧療法とQuality of Life(QOL)
道場 信孝
1
1帝京大学第三内科
pp.121
発行日 1988年2月15日
Published Date 1988/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404205191
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今日,高血圧の薬物療法は早期に開始するほど効果が大きいことが次第に受け入れられてきている。本来,治療のゴールは症状の軽減と,予後の改善にあるが,軽症,あるいは,中等症の本態性高血圧はもともと無症候性であり,自然の経過に対する効果の有無のみが問われることになるので,治療の経過においてQOLが障害されることは許されない。
QOLは,『社会生活の中で,正常に機能することのできる能力』と定義され,その要素としては,(1)社会的に機能する能力,(2)患者の感受性,あるいは,知的機能,そして,(3)疾病,あるいは,その治療によって生じる症状や徴候が挙げられる。社会的機能には仕事は勿論のこと,同僚,友人,家族,そして,隣人との交流が含まれ,知的機能としては精神的機敏性,決断力,記憶力,そして,社会生活の遂行上必要な種々の知的機能が主要因となる。患者が生活の質を高いレベルに保つためには,不安やうつ的傾向がなく,健康感にあふれ,標準的な生活を送るために必要な経済状態に恵まれていなければならないが,このようなQOLを規定する要因は高血圧と診断されるだけで容易に影響されるし,まして薬物療法や,場合によっては入院など,直接生活条件を揺るがす治療に伴う生活への介入はQOLを大きく左右することになる。
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