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胸部大動脈瘤の治療は古くしてまた新しい問題である。まず,動脈瘤は外傷を除けば起因疾患の続発症ともいうべきものであるが,その起因疾患が最近では著しく様変りしている。にも拘らずこれの自然予後の報告は極めて少ない。少ないながらその1つとしてMayo ClinicのBickerstaffらの報告1)(1982年)をここに紹介すると,その発見された72例(人口10万に5.9人の割合)の起因疾患は動脈解離27例(53%),動脈硬化15例(29%),動脈炎4例(8%),嚢胞性中膜壊死3例応(6%),梅毒2例(4%)となっている。自然予後は53例(74%)に破裂が起こり,うち50例が死亡しているが,この中で37例は動脈瘤の生前診断がつけられていない。しかし,16名の生前診断例でみると診断から破裂までの期間は平均2年である。おしなべてみるとこの72例の実質5年生存率は13%,うち動脈解離で7%,真性動脈瘤で19.2%となっている。このような自然予後データは胸部大動脈瘤に対して何らかの積極的なアプローチをするのが当然であるという結論に導く。ではこの積極的なアプローチとは何かというと,それは外科的にこの動脈瘤部分を切除し,人工血管で置き換えようというのが現在の一般的の結論であろう。しかし問題はある。原則として大動脈瘤の手術は機能的不全を補って生体に多少でもプラスのことを与える手術ではない。つまり大動脈弁不全に弁概換を行ったり,冠動脈狭窄を解除して冠血行を補う手術は多少でも生体の機能を補完することに意義があるか,動脈瘤の手術はただ侵襲あるのみである。そしてこの点こそがまさに弓部大動脈瘤に集中して具現されている。そこは大動脈が前方から後方にうつる所で,全視野をうる露出法が他の大動脈部分より困難である。ここには重要な神経が大動脈の前を走り,何よりも頭部血行の分枝が出ている。気管,気管支,肺動脈がこれに併行している。このような部位での手術はどうしても侵襲過大に陥り易く,後述するように必ずしも従来の考え方のような術式は完全な手術とはいい難い。著者は胸部大動脈瘤の発展様式および大動脈解離の進展分析の研究から,動脈瘤に対してexternal support,実際にはメッシュラッピングをおくことにより充分の破裂防止の効果がえられるとの見解をえた。これは極めて軽度な侵襲でその目的を達しうるもので,ここにその成績の一端を披露して大方の御批判を乞いたい。
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