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肺高血圧症とは,肺動脈圧が異常高値を示す状態であり,心臓カテーテル法により,肺動脈圧の測定が可能になって始めて臨床的に問題となってきた病態である。肺高血圧症の大部分は続発性で,一般的には基礎疾患として左室不全,僧帽弁膜症,慢性肺疾患が主であることが多い。ところが肺高血圧症の基礎疾患となりうる心・肺疾患がなく,原因不明の,高度の前毛細管性肺高血圧症を示す病態があり,これを原発性肺高血圧症(primarypulmonary hypertension;PPH)という(厚生省特定疾患原発性肺高血圧症調査研究班の基準による)1)。組織学的情報の得られない臨床診断の段階では,除外診断によるので,1つの疾患単位の診断名というより,各種の成因よりなる共通の病態を意味している可能性がある。発生頻度は多くはないが,近年報告例が増加しており,予後は悪く,比較的若い年代に発生するので,その診断は臨床的には重要な意味を持つ。また成因,病態については不明な点が多く,治療法もいまだ確立していないのが現状である。その存在は以前より知られていたが,1967年スイス,オーストリア,西ドイツを中心として,痩せ薬として用いられた食欲抑制剤(aminorex fumarate)の服用者にPPHと病理形態学的に診断される症例が多発したことは注目を集めた2)。1970年Wagenvoortらは51施設で臨床的にPPHと診断された156剖検例について,病理組織学的検索を行い,そのうち肺動脈中膜の肥厚,内膜の同心円状の線維化(onion-skin lesion),plexi—form lesionを認める110症例を血管攣縮による原発性肺高血圧症と呼び,1つの疾患単位としうることを明らかにした3)。WHOでも1973年専門家会議を開催し,本症の診断基準,概念の統一などに関する報告を行っている4)。それによれば,臨床的に原因不明の肺高血圧症と診断された症例の肺血管病変は次の3型にわけられるという。(1) plexogenic pulmonary arteriopathy,(2)肺静脈閉塞症(pulmonary veno-occlusive disease),(3)反復性肺血栓塞栓症(recurrent pulmonary thromboem—bolism)である。これらを肺生検などの検索なしに臨床的に鑑別することは多くの場合不可能であるが,本来のPPHの組織像はplexiform lesionを伴うとしている。しかしplexiform lesionそのものは先天性心疾患等にも観察されており,そのことを考慮して,WagenvoortらはPPHの組織所見をunexplained plexogenic pulmo—nary arteriopathyと表現している5)。本邦においては,1974年われわれが,全国の300床以上の1,000施設に対してPPHについてアンケート調査を行い,自験例および64施設よりの提供症例について検討報告6)したが,その後1976年から1978年まで厚生省特定疾患原発性肺高血圧症調査研究班が設置され,本症に対する概念は漸く統一されつつある。本稿では,臨床的にPPHと診断されたものが病理組織学的には単一でなく,異なったものを含んでいることを自験例で示し,なかでも原囚不明であることを特徴とするPPH (plexogenic pulmonaryarteriopathy)の成因および発生機序について,臨床的,実験的成果をふまえて,あえて記述を試みる。
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