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はじめに
手術と肺機能との直接的関連においてかつて大きな問題であったのは,肺切除の適応と,肺結核の空洞閉鎖の目的で施行された胸郭成形術の後におこる慢性呼吸不全であった1,2)。特に後者は問題となり,外国でもGoughら3)は胸郭成形術後の患者231人を6〜8年間観察した結果,大半は良好な経過を辿っていたが,4例の肺性心による死亡をみたと報告している。また,Sawickaら4)が扱った胸郭成形術後の呼吸不全患者は術後約20から40年経過したものであった。胸郭成形術は現在化学療法にとってかわられたが,肺手術後慢性呼吸不全という問題は現在でも生じ得る。はじめに具体例として,肺の難治性膿瘍のために左上葉切除術を施行,術後慢性呼吸不全を来した1症例を呈示し,呼吸機能の変化の実際を見てみたい。
症例は52歳(昭和57年)男性。昭和21年(16歳時)に肺結核として人工気胸術を受けたが,昭和44年に肺結核再発と診断され,1年間INH,PAS,SMによる化学療法を受けた。昭和54年,微熱が続くため内科に入院,人工気胸術後の左膿胸の診断で保存的治療を行ったが,治療に抵抗性であったため翌年左膿胸に対し左上葉切除術および左胸膜剥離術を施行,退院した。ところが昭和57年3月より浮腫,呼吸困難,睡眠障害が出現,強心剤,利尿剤で一時症状の軽快をみたが,同年9月より再び呼吸困難,睡眠障害が増強した。術前術後の肺機能検査をみると(表1),術後の肺活量は術前の76%(1,150ml)に減少,1秒量も術前の69%(0.92l)に減少している。この1肺葉切除による肺機能の変化は著明であり,肺活量,1秒量の減少は切除された肺葉容積の全肺に占める割合と同程度5)である。ガス交換障害はPaCO2の上昇から主として換気障害によるものであることが知られる。拘束性障害と換気障害に要約されるこの症例の肺機能異常は明らかに肺葉切除によりもたらされたものであるが,このような術後の変化を術前の肺機能検査を含む諸種の情報から予測しえないかということが,手術に係る一般的問題のひとつとして提起される。
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