巻頭言
固定観念にとらわれない
清水 禮壽
1
1自治医科大学麻酔科
pp.1267
発行日 1983年12月15日
Published Date 1983/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404204349
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血圧はショックの診断や治療において大きなウェイトを占めてきた。このことはショックにおける他の病態生理学的パラメータを測定する方法よりも早くから血圧を測定する方法が確立されたという歴史的事実に負うものと思われる。すなわち,ショック状態では血圧下降ということが容易かつ客観的に認識されるため,いきおい治療の主眼も血圧回復それ自体にむけられ,その手段としてα作用の強いカテコラミンを主とした昇圧薬が次から次へと臨床に導入され,それらが現在でも広く用いられている。しかし,昇圧薬の導入によってショックの治療に飛躍的な進歩がもたらされたという事実のないことは衆目の一致するところである。最近ではショック状態の増悪にともなって内因性カテコラミンの血中レベルが上昇していることがわかってきた。すなわち,昇圧薬は一時的に血圧を回復させる手段としては有効であるが,ショックそれ自体の治療にならないばかりか,事態をさらに悪化させてしまうことの方が多い。したがって,血圧をモニターすることは必須のことではあるが,その皮相的な観察にのみ固執してはならない。血圧の回復はいろいろな手段によってショックの治療が成功した結果としての血行動態の変動としてとらえる方が正鵠を射ているといえる。
吸入麻酔薬ハロセンが入ってきた頃には,カテコラミンとくにエピネフリンと併用すると重篤な不整脈が発生するので,形成外科のように止血の目的でエピネフリンを使用する場合でもハロセンを使用してはならないといわれた。そのうちβ—blockerであるpropranololを用いればハロセンとエピネフリンを併用しても安全であるということがわかってきた。
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