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"肺と免疫"という言葉には,大きくは二つの課題が含まれている。一つは,肺の免疫機能"免疫反応を基盤とした肺における生体防衛機構"の問題であり,一つは肺のアレルギー性疾患"免疫反応を基盤として惹起された気管支・肺領域における機能障害あるいは傷害"の問題である。肺は,皮膚,消化器とともに外来性異物,抗原の主要な進入経路であり,体液性,細胞性を含めての抗体産生臓器であること,更には抗原抗体反応の場であることは,図1に示したようである。気道,ときには血行を介して肺に進入した抗原に対して肺の局所リンパ節,更に,全身の他の免疫臓器においても抗体産生が行われる。そして,肺以外の経路より進入した抗原に対する抗体,自己抗原に対する抗体"自己抗体"を含めて,抗体は血行を介して肺に到達する。そして,肺における抗原抗体反応が生体にとって有利な方向で発現された場合には,生体防衛機構としての肺の免疫機能が発揮されたわけであり,抗原抗体反応が生体にとって不利な方向で発現された場合には,アレルギー性肺疾患が惹起されることになる。しかし,アレルギー性肺疾患が,生体にとって不利な方向に発現された免疫反応の表現であるとは言え,基本的には生体の防衛機構,異物排除機構の延長上にある現象である。
肺は,外来性抗原に最も接触しやすい臓器である以上,肺疾患のいくつかはアレルギー性疾患に属するものであろうことは古くより考えられて来たはずであり,また,呼吸器疾患のうら最も重大な疾患であった結核はアレルギー研究のbest modelの一つであったことも事実である。しかしながら,明確な意識をもって,肺のアレルギー性疾患が論議されるようになったのは,Liebow,Carringtonによって"Hypersensitivity reactions involingthe lung"なる論文がTrans.Stud.Coll.Physicians.Phila.34:47〜70,1966に掲載された以後の比較的新しい事実である。1968年には,Gell Coombsによって"Clinical Aspect of Immunology (Blackwell,Oxford)が刊行された。アレルギー反応を四つのタイプに分けて記述することを基盤としており,肺におけるアレルギー反応に関してはParish,Pepysによって詳細な記載が行われている。Gell,Coombsによるアレルギー反応のタイプと主なる肺疾患は表1に示した。このGell,Coombsの分類は今日においても,肺におけるアレルギー反応を考える上で基本的な考え方として用いられている1)。Gell,Coombsによるアレルギー性肺疾患の分類自体は,皮膚反応所見,末梢血(血清を含めて)所見を中心に生検あるいは剖検時の病理組織所見を基にして行われたものであり,必らずしも,全ての疾患において,何が抗原であり,何が抗体であり,どのような抗原抗体反応が起こり,結果としてどのような機能障害,傷害が惹起されたかが明らかにされているわけではない。肺のアレルギー性疾患の研究において,最近,一つのrevolutionaryadvanceがもたらされた。Reynolds (1974)2)によるbronchoalveolar lavage (気管支肺胞洗滌:BAL)術の導入である。BALによって病変局所の液性成分,細胞成分を用いての検討が可能になり,従来血液学の分野で行われていたのと同様なin vitroでの研究が呼吸器疾患科領域においても行ないうるようになり,アレルギー性肺疾患,特にIII型,IV型アレルギー性肺疾患の発症,進展機序に関する考察がより確かな証拠をもって行ないうるようになった3,4)。
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