巻頭言
ある薬の歴史とその展望
岳中 典男
1
1熊本大学医学部薬理学
pp.799
発行日 1971年10月15日
Published Date 1971/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404202308
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狭心症の治療に亜硝酸剤が試みられたのは,およそ100年も以前のことであった。その最初の報告をBrunton(1867)はLancet誌に発表し,つぎのように述べている。狭心痛に対し,ジギタリス,アコニチン,ロベリンなどはいずれも無効であったが,小量の瀉血を行なったところ著効を奏した。この理由は血圧下降にあると推察し,亜硝酸アミルを吸入させると,発作に伴う高血圧や頻脈が消退し,狭心痛は完全に軽快した。
ニトログリセリンはSobrero (1847)により合成され,Nobel (1862)はこれをダイナマイトに利用した。医薬品としても歯痛や神経痛に試用され,人体作用として顔面紅潮,嘔吐,拍動性頭痛などを呈することが知られていたが,本剤を狭心症に用い有効性を確めたのは,Murrell (1879)であった。狭心症の臨床的記録はHeberden (1768)にさかのぼるが,近年になってその発生数は著しく増加し,ニトログリセリン使用症例は夥しい数に上っている。効果判定には,客観的な指標による二重盲検法も採用されているが,現在,その臨床的有効性に関して疑いをもつものはほとんどない。
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