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はじめに
左右短絡性心疾患の手術成績を左右する最も大きな因子は肺高血圧であり,手術適応決定にあたりその評価に迷うことがしばしばある。われわれは最近1),慶大外科における肺高血圧を伴う動脈管開存症,心室中隔欠損症,心房中隔欠損症の手術成績を検討し,各疾患における肺高血圧の特殊性,年齢との関係,血行動態および臨床症状からみた手術適応の限界を明らかにしたが,特に心室中隔欠損症に問題が多い。肺/体収縮期圧比80%以上の心室中隔欠損症でも,手術適応をある程度厳格にすることにより,その手術死亡率を10%程度にすることは可能であるが,しかし手術症例を選ぶことのみで,この問題が解決されるわけではない。高度の肺高血圧を伴う心室中隔欠損症は,乳児期の心不全を乗り越えれば,その後しばらく比較的安定した経過をとりえることもしばしばあるが,20歳以後の経過は全く不良であって2),これから意義ある人生がはじまろうとするときに,前途に絶望せざるをえないことになる。一方乳幼児期に手術に成功すれば,大部分の症例で完全な健康体を期待しうる。この点中年過ぎの肺結核,癌疾患などと根本的な差があり,手術適応,手術危険性に対する考え方も,自ら異なる点があると考えられる。従ってわれわれは特に乳幼児の場合には,左右短絡の優勢を示すなんらかの所見があれば,ある程度の危険は予測されても,積極的に欠損孔閉鎖手術を行ない,手術可能な時期,手術可能な例を1例でも見逃してはならないとの態度をとっている。
かかる手術適応限界の症例を対象とするためには,特に肺高血圧の発生機序,これに影響を及ぼす諸因子について深い理解を必要とし,この知識にもとづいて適確な術前検査,手術適応決定,術後管理を行なうことが要求される。高度肺高血圧を伴う例では,麻酔,呼吸,薬剤などの影響により数値のばらつきを生じ易いので,心臓カテーテル検査を行なっている際には,これらに対し常に細心の注意をはらい,血行動態を正しく反映した成績がえられるよう努力しなければならない。この考慮がたりない場合には,心カテ成績のみで議論しても手術適応限界上の症例の判定を誤まることになる。
本文においては,はじめわれわれの手術成績,手術適応外となった症例,剖検例の肺血管病変について,その問題点を述べ,次いで肺高血圧の病態生理をひろい視野から検討し,今後の手術域績向上の一助にしたいと思う。
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