巻頭言
循環器病診療の夢
大鈴 弘文
1
1東京警察病院内科
pp.829
発行日 1956年12月15日
Published Date 1956/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404200438
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肺結核の診療にレントゲン検査は欠くべからざるものではあるが,患者を診ないでレントゲン写真だけで診療はできないと同様に,心臓病診療には心電図が有力な手段ではあるが,之だけで診療はできない。何も聴かずに心電図をみせられても或程度の想像はできる。例えば呼吸性不整脈を伴う右型心電図ならば若い女性で心筋正常なもの,心房細動があつて右型たらば僧帽辨口狭窄,定型的冠性T波を呈するものは陳旧性心筋梗塞等と判断して大した誤はないが,それでも100%に当るものではたい。まして一枚の心電図から病名を定め,経過,予後,治療を論じ,又は寿命を予知することは診療というよりも占卜になるであろう。心電図判読には性,年齢,血圧,心濁音界,心音,既往の治療等を知る必要があり,診療の参考とするためには一般所見を観察し,経過を追つて採取しなければならない。従つて臨床経験が物を言うことになり,誰が読んでも心電図の臨床価値が同じということにはならない。脈波図,心音図,心弾図,心カテーテル検査等オツシログラフを利用する各種の検査,その他の所謂心機能検査法も,一つで心機能の全体を示すものはなく,時にはそれら検査成績の間に矛盾するものがある。適当な検査法を選び,その成績を綜合して,適切な判断,治療をするのが実地医家の任務であり,又そこに練達な臨床家の誇があるのであるが,医学は自然科学の一部であつて,自然科学は諸々の現象を数式や曲線で表現することを理想としている。
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