巻頭言
目まぐるしく変る学説
名取 礼二
1
1慈恵大
pp.467
発行日 1955年8月15日
Published Date 1955/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404200264
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30年位前に,HillとMeyerhofが筋收縮の研究でノーベル賞金をもらつた頃は筋收縮のしくみは殆んどわかつたと思われ,10年たつかたたぬ間に或意味で全く書き変えられようとは夢にも思わなかったであろう。これと同じように,今日筋收縮の本態はactomyosinのATP收縮であるという主張が圧倒的に支持されているが,早晩Hill,Meyerhofの学説と同じ運命にさらされるであろうことを予想するのはそんなに冒険ではない。生物の働きのしくみは多数の機転がからみあつており,きわだつた何か一つの機転だけであらゆる現象を統一して解釈するのは原理的にも難しい。ところが,吾々の好みかも知れないが,複雑な現象から簡明なしくみを抽出して,それを本態的機転と考えるのに最大な魅力を感じる。すつきりした説明,理論整然とした解釈といつて悦に入る。複雑なわけのわからぬものをごたごたそのまゝ並べるのは馬鹿げたことのように思う。多かれ少かれ学説を提唱するものはこの道をとり,また自分のたてた学説でなるべく手広く諸現象を説明しようとする。例えば上にあげたA. V. Hillも,骨格筋で得た收縮に対する見解を,生物のあらゆる運動様式に拡げて,繊毛運動,鞭毛運動,アメーバ運動,筋運動すべての機転が本来相同のものといつている。またSzent-Gyorgyiは,すべての收縮をactomyosin-ATP系で解釈しようとしている。これが悪いとはいわない。
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