巻頭言
学説とその伝承
諏訪 望
1
1埼玉医科大学神経精神科センター
pp.558-559
発行日 1984年6月15日
Published Date 1984/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405203766
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私の乏しい経験でも,先人が残した業績の真意を的確にとらえられなかったり,あるいは勝手に解釈したのではないかと反省させられることもなかったとはいえない。また古くから言い伝えられ,われわれの常識になっているような事柄について,その原典に当ってみると,若干の食い違いがあるのではないかと疑われることも必ずしも稀ではない。
「精神病は脳病である」という命題は,Griesingerに由来するものとしてあまりにも有名であり,多くの成書に引用されている。しかもこの命題は,19世紀の後半に台頭し近代ドイツ精神医学の主流となった反ロマン主義,自然科学主義を象徴する標語として,いささかの抵抗もなく容認されている。ましてJaspersまでが,Griesingerおよびその流れを汲むMeynertとWernickeの学説を“Geisteskrankheiten sind Gehirnkrankheiten”という公式で表わされるものと規定しているので(Allgemeine Psychopathologie, 4. Aufl., S. 382),このような表現の仕方はいっそう権威づけられることになる。
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