Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
大気汚染物質の健康影響については,長年各国で検討され環境対策が実施されてきた.わが国においては,高度成長期の1960年代に工場地帯周辺部で持続性の咳,痰,喘鳴,喘息症状などを来す患者が多発し,いわゆる“公害喘息”として知られるようになった.当時の原因物質は主に二酸化硫黄(SO2)と浮遊粒子状物質(suspended particulate matter;SPM)が主体であった.その深刻な影響に対応するために,公害健康被害補償法が制定され,大気汚染物質の環境基準(1973年)が定められた.以来,行政,産業界の努力と,技術的な進歩により工場を発生源とするSO2などの著しい改善がみられた.最近注目されているのは直径2.5μ未満の微小粒子状物質PM2.5であり,その主要な構成成分はディーゼルエンジン由来の粒子diesel exhaust particles(DEP)である.わが国で指定されている大気汚染物質としては,一酸化炭素,二酸化窒素,二酸化硫黄,光化学スモッグおよびSPMがあるが(表1),このうち窒素酸化物と粒子状物質は自動車の普及とあいまって,種々の環境対策にもかかわらず改善されておらず問題となっている.環境省中央環境審議会・大気環境部会は2008年4月,PM2.5の健康影響に関する報告書をまとめ,その基準案として年平均で15μg/m3,日平均で35μg/m3を示した(2009年7月).
PM2.5については,1970年代から行われたアメリカの6都市における疫学調査によりPM2.5の濃度と死亡数との間に有意な相関があり,その影響は相対危険度にして1.31と推定された1).また,その急性影響については,その濃度の変動が,呼吸循環死と関連すること,呼吸系疾患の外来受診や入院数と相関すること,さらに呼吸機能や症状の悪化をもたらすことなどが報告されている.さらに,近年問題となっている気管支喘息などのアレルギー性疾患の増加の要因として,各国で検討されてきた.近年では大気汚染の問題は国境を越えた国際的な問題となり,2013年春の越境汚染の影響で,わが国でPM2.5の影響が議論され,暫定的な基準が公表されたのは記憶に新しい.このように,大気汚染問題は今後ますます国際的な環境問題としてクローズアップされるであろう.
本稿では,都市部のPM2.5そしてその重要な部分を占めるディーゼルエンジン排気微粒子(diesel exhaust particles;DEP)の生体影響のうち,特に非発癌影響に焦点を当てて概説を試みる.
Copyright © 2014, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.