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ここ10年,大学医学部にあっては,卒前卒後医学教育をめぐる大きなうねりに遭遇してきた.今,またわが国に於いて米国国内の医療政策変更に端を発した医学教育のカリキュラム改変が起こっている.このようななかにあって本邦の医学教育機関,実地医療現場では,呼吸器内科医不足が大きな問題に直面している.今回の米国の医療政策変更は,米国外から臨床留学としてやってきて米国民の医療に直接従事する医師が多くなってきたため米国の医学教育基準を満たした医学教育機関を修了したものでなければ米国の医師資格試験の受験を認めないというものである.これまで海外から米国での臨床留学をする際にUSMLE(United States Medical License Examination)に合格しECFMG(Educational Commission for Foreign Medical Graduate)を取得しておく必要があった.このUSMLEの受験にほとんど制限はなかったのであるが,2023年以降医学教育の質を保証する米国医科大学協会(AAMC)のLiaison Committee on Medical Education(LCME),World Federation for Medical Education(WFME)の基準,またはこれに相当する国際基準に認定されていない医学部からの卒業生にUSMLEの受験を認めないというECFMGの宣言が2010年9月に行われた.つまり国際認証を受けている医学部出身者にのみUSMLEの受験は限定されることになったのである.ところが本邦の医学部は,この国際基準を満たしていないことが明らかになったのである.これは,米国臨床医学留学の道が閉ざされてしまうという危惧のみならず,この国際基準を満たしていない国は,一部の発展途上国と本邦であったという.これを受けて,米国臨床医学留学のためというよりも医学教育のglobal standardに乗り遅れてしまっていたという危機感から,文科省を中心としてほとんどの医学部でこの2023年問題に対処すべくにわかにカリキュラム改変が進行しつつあるという現状である.最も大きな改善点は,現在の臨床実習期間を延長し,特にclinical clerkshipといった診療参加型臨床実習を拡大するということである.米国に於いては臨床実習が72週となっており,これに近づけるために苦心惨憺している状況である.診療参加型臨床実習となると直接患者へ接する機会が多くなるため,これには学生の質の保証と指導医の数の確保が問題となる.学生の質の保証という意味では,患者側の理解もさることながら2005年に正式実施された共用試験(CBTとOSCE)の評価を厳格にする必要が出てくると思われる.しかし,大きな問題は,指導医の数の問題である.これまで多くの大学で実施されてきた見学型実習から診療参加型実習へすべてが移行するわけではなく,72週の期間の一部は見学型実習を行い,残りの大部分を診療型実習に使用するものと考えると病棟に見学型実習のグループと診療参加型実習の学生が併存するということも出てくる可能性がある.このことを考慮すると指導医も一定の数を確保する必要が出てくるのではないかと考える.屋根瓦式といわれる前期研修医や後期研修医も交えた教育体制を整えるにしても2004年度から制度化された新臨床研修制度により研修医の数を減らした大学病院は,かなりの負担を強いられているのではなかろうか.また,循環器内科,消化器内科と並んでcommon diseaseを扱うことの多い呼吸器内科医が患者数に比し少ないということは,診療参加型実習を遂行するうえでも問題である.呼吸器内科医への診療,医学教育の点からこれまで以上に負担が増加することは,呼吸器内科医師数の減少に拍車をかけることになりはしないかと危惧するところである.かつて小児科医や産婦人科医は人員不足が取り上げられ種々の改善策がとられ現在,充足しつつあると聞く.呼吸器内科医の充足にむけても抜本的かつ具体的改善策を試みられなければならない時期にきていると考えられる.呼吸器疾患は,全身性疾患との関わりも深く,呼吸器内科は,総合内科と言っても過言ではなく,実臨床の場だけでなく臨床医学実習においても格好の教育の場である.このような現状と今後を考えるとき呼吸器内科医の増加にむけて学会のみならず行政,国の協力も必要である.卒前卒後の医学教育の変革,特に今回の国際基準を満たす医学教育改革は,本邦の医療医学の質を高い水準に保ち,国民の健康と福祉に貢献するという大義にあると言う点からも呼吸器内科医の増加を抜きにしては考えられない.
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