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はじめに
近年,慢性炎症が,がん,糖尿病,心血管疾患,腎疾患,アルツハイマー病などの幅広い疾患で重要な働きをしてきていることに注目が集まっている1).臨床的には,狭心症や心筋梗塞において,炎症の一般的なマーカーであるC反応蛋白(C-reactive protein;CRP)の上昇はその発症の独立した危険因子であり2),心不全においても,血中の腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor;TNF)αやインターロイキン(Interleukin;IL)-1β,IL-6,IL-18などの炎症系サイトカインの上昇が認められ,心不全の程度の炎症系サイトカインの上昇の程度が相関する3).さらに,血中CRP,IL-1β,IL-6の上昇は糖尿病の発症とも関与している4).この結果は,これらの慢性疾患に共通して炎症が関与していることを示唆する.近年,どのようなメカニズムで慢性炎症が生じ,どの程度病態形成に関わっているか,解析が進みつつある.
急性炎症とは,病理学的には感染や障害部位に血管の変化により,好中球を中心とした白血球浸潤,抗体などが届けられ,ケルススの4徴(発赤,腫脹,発熱,疼痛)を示す病態で,成体の恒常性維持に必要な基本的システムである.これに対して,慢性炎症は,古典的には,この急性炎症反応では障害が解消できない場合に慢性炎症に移行すると考えられている.よって,慢性炎症とは,組織障害と組織修復が同時に存在している状態と考えられている5).しかし,近年,生活習慣病などの発症に関わる慢性炎症という概念に登場する慢性炎症は古典的な定義のように先行する急性炎症はなく,非常に弱い炎症から始まり,それが持続するというタイプのものである.この慢性炎症は疾患によって構成する炎症細胞,間質細胞,新生血管などのタイプは異なる部分もあるが,進展のメカニズムに共通した部分も多い.
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