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はじめに―治験と臨床試験はどう違うか?
未承認の医薬品や医療機器が製品として市場に出回るには,開発開始から最低10年はかかると言われる.製品の安定性や動物実験による安全性を試す前臨床試験と呼ばれる期間に4~6年,患者や健常者に実際に試用してみる治験と呼ばれる期間が4~7年程度ある.よく,臨床試験に関する話を様々な会議の場で話すときに感じるのは,言葉の定義があいまいで,こちらの言っていることが,正確に伝わらないことである.治験というのは,未承認の医薬品・医療機器の薬事承認を厚生労働省から受ける目的で,医療機関において実施する試験のことをいう.これに対して臨床試験は,薬事承認を得ようが得まいが,未承認の医薬品・医療機器を用いる試験の全てを指す.集合関係でいうと,臨床試験の中に治験があるということになる.治験でない臨床試験のことを臨床研究と呼ぶ人もいるが,臨床研究には医薬品・医療機器を扱わないで,患者の検体や情報だけを扱う観察研究もあるので,正確な呼び方ではない(図1).
1997年に薬事法の下で,治験に関する施行規則をまとめたGCP省令が発令されてから,それまで医師と製薬企業の間で行われ,不透明な部分が多かった治験の情報公開が進み,治験がどういうものなのか,どのように施行するのか,医師や患者に広く知られることとなった.その後,2004年に新GCP省令が出て,製薬企業ばかりでなく医師が依頼者となって治験を開始することができるようになった.
一方,臨床研究に関するルール作りが進み,2009年に厚生労働省から「臨床研究に関する倫理指針」が発表され,治験でない臨床試験においてもGCP省令に準じた倫理性が求められるようになった.
臨床試験を取り巻くもう一つの大きな動きは,治験のネットワーク化である.GCP省令が出るまでは,各医療施設と製薬企業が個別にばらばらに話し合って行ってきたが,治験に時間がかかりすぎ,ドラッグラグの原因となっているという批判から,治験を効率的に進めるための方策として進められている.医療機関の間でネットワークを作り,手続きや申請書の書式を共通にしたり,治験審査委員会(IRB)を一本化したりという動きである.この動きをさらに進化させたものが,国際共同治験である.国別にばらばらに実施してきた治験を複数の国で同時に進めようとするもので,2008年11月の時点でわが国で90件の国際共同治験が実施中であった.薬事承認を目指さない自主臨床試験で,国際共同で行われているものがあるかというと,企業主導で進められないと,現実には資金面,組織面で国際共同実施は困難と言わざるを得ない.稀有なる例ではあるが,2007年に米国オハイオ州シンシナティ大学を中心に始まったリンパ脈管筋腫症を対象とする第Ⅲ相国際共同臨床試験(MILES試験)は,医療機関が自主的に行う自主臨床試験であるという点で稀有なる臨床試験である.
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