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はじめに—閉鎖循環系・微小循環の維持と肝機能
人体は,実に数十兆個にも及ぶ種々の細胞が組織を形成し,それらが有機的に集合して臓器として機能し,生体として統合されることで生命を維持している.これら全ての細胞・組織・臓器に酸素と栄養を運搬し,老廃物をクリアランスするために張り巡らされている血管網は,成人で約10万km,地球2周半にも達する.この膨大な血管床は“閉鎖循環系”を形成し,成人では容量にして約5Lの血液がその内腔を循環することで,各細胞の生命と機能を維持している.“出血”とは,この閉鎖循環系の一部が破綻して血管内を循環すべき血液が血管外に漏出する状態であり,直ちに局所的な血管攣縮と一次的な血小板凝集・血栓形成から凝固因子による二次止血までが速やかになされることで閉鎖循環系を維持しなければならない.一方で,よどみない微小循環の維持には,血栓の形成を予防し(抗凝固),血栓ができればこれを速やかに溶解(線溶)することで微小循環が維持されなければ,臓器機能が発揮されない.
肝臓は,血管内皮細胞などで産生/発現/分泌される一部を除いて,ほとんどの凝固・抗凝固・線溶・抗線溶因子を産生する臓器である(表1)1).血小板凝集の核となるvon Willebrand因子(von Willebrand factor:vWF)重合体の特異的切断酵素ADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13)も肝臓の星細胞で合成されること2),血小板の産生・放出を促すトロンボポエチン(thrombopoietin:TPO)も肝細胞で産生されること,さらに産生のみならず,活性化した凝固・抗凝固・線溶因子の分解をも担うことを考え合わせると,肝臓はまさに全身の凝固・抗凝固・線溶系,血小板系をつかさどる中心臓器である.血液の凝固(止血)と,相反する抗凝固・線溶がともに肝臓によって制御されているため,種々の病因による肝硬変から肝不全に陥ると,必然的に止血能とともに抗血栓・血栓溶解能も破綻することになり,閉鎖循環系・微小循環の維持が困難になる.
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