巻頭言
医師不足の実態と対応
水野 杏一
1
1日本医科大学内科学講座(循環器・肝臓・老年・総合病態部門)
pp.237
発行日 2009年3月15日
Published Date 2009/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404101222
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長きにわたり医師数を抑制してきた政府が,医師増員に踏み切り,来年度の医学部定員を693人増やすと発表した.将来の構想では医師の数を1.5倍に増やす予定とのことである.政府が医師増員に踏み切った理由は周知のとおり,全国の勤務医不足が深刻化し,病院の産科や小児科の閉鎖,東京都内でさえ起きている救急医療体制の崩壊,中核病院の廃院などである.
この理由はひとつではなく複合的に生み出されたものであろう.すなわち,増え続ける医療訴訟,民事のみならず刑事訴追されるという医師と患者の埋めることができない認識の差,産科,小児科,外科,救急医療などの領域における労働条件の悪さ,勤務医の過重な就業時間,出産や子育てで一定期間働けない女性医師の増加,新研修医制度により地方や僻地病院からの大学病院への引き上げ等と思われる.確かにWHOの発表では日本の人口当たりの医師数は192カ国中63位とのことである.特に,OECD加盟国のなかで日本の医師数は加盟国の平均の7割にも届いていないとのことである.だからと言って医師数を増やせば日本の医療はバラ色になるというばかりではないと思われる.今の制度のまま医師を増やせば,地方の偏在はそれほど変わらず,供給過多になった勤務医は安く使われる公務員化され,政府が統制しやすくなるか,医師も過剰の歯科医や弁護士のように就職口に困るようになることすら考慮される.
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