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はじめに(組織幹細胞) 発生の時期だけではなく,成体においても組織内には組織幹細胞が存在し,臓器の恒常性維持に重要である.また,この組織幹細胞の維持には幹細胞周囲の環境(niche)が重要である1,2).これら幹細胞とnicheの老化は,加齢に伴う組織老化に関与していると考えられている.組織幹細胞そのものが老化するのかnicheの老化が幹細胞に影響するのか明らかではないが,加齢に伴い組織幹細胞の減少(神経幹細胞3),心筋幹細胞4),色素幹細胞5),精子幹細胞6)など)や機能低下(血液幹細胞7),筋衛星細胞8)など)が認められる.また,すべての幹細胞が分化してしまえば幹細胞の枯渇が生じるため,組織幹細胞の維持には未分化性の保全も重要である.組織幹細胞老化の例として,「白髪」形成がある.「白髪」はメラニン色素を補給する組織幹細胞(色素幹細胞)の数の減少と機能低下によってもたらされる5).
炎症損傷後の組織修復においても,組織幹細胞の関与が報告されている.肝臓はもともと再生能力の高い臓器として知られている.急性の肝障害時においては,分化した幹細胞が増殖して組織再構築をもたらす.しかし,障害の範囲が広範である場合や慢性的な障害においては,肝細胞と胆管上皮細胞に分化する能力を持つ肝前駆細胞が増殖し治癒機転に関わる9).皮膚においても,ケラチン19陽性細胞が皮膚幹細胞と考えられており,この細胞の数と機能の違いが皮膚創傷治癒の速度に影響すると示唆されている10).
このように組織幹細胞は臓器の維持に関与しているため,遺伝子治療・細胞移植・臓器再構築など治療のターゲットとして重要である.また,近年のiPS細胞研究の進歩に伴い再生医療の実現が現実化しつつあるが,iPS細胞を全ての目的細胞に分化させるよりは,様々な細胞の上流に位置する組織幹細胞に分化させたほうが効率的である.そのためにも,組織固有の幹細胞の同定と解析が重要である.
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