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臓器の老化のメカニズムについては,古くから諸説提唱されてきた1-3)。皮膚においては加齢に加えて,紫外線やタバコなどの環境因子の関与が大きいことが知られていることに加え,活性酸素,代謝,ゲノム不安定性,エピゲノム変化など“hallmarks of aging”として知られる因子や現象が老化全般に関わるとされている3)。しかし,損傷やストレスを受けた細胞が生体内でどのような運命や動態を示すのか,多くの組織や臓器においていまだほとんど明らかにされていない。老人性の白毛症(白髪)や脱毛症は加齢と共に発症する典型的な老化形質である。筆者らはこれまでに哺乳類の毛包が老化するしくみを研究し,ステムセルエイジング(幹細胞老化)が毛包という小器官の老化を決定的なものとしていることを明らかにしている。マウスやヒトにおいて,加齢または種々のストレス負荷によって,色素幹細胞の枯渇から色素細胞が不足し白髪を発症すること4)に加え,毛包幹細胞の枯渇によって毛包が矮小化(ミニチュア化)して毛髪が細く短く疎になることも明らかにしてきた5)。つまり,器官再生の要である組織幹細胞が老化においても鍵を握っており,ステムセルエイジングが器官老化の決め手となり得ることを明らかにした。一方,皮膚は個体と外界との境界に位置し,外界からの様々なストレスや損傷などに曝されているが,その活発な新陳代謝によってあらたに生まれ変わり続けており,個体を外界から守っている。生涯にわたって表皮幹細胞の疲弊を防いでいることが想定されるが,個々の幹細胞の運命や動態についてはほとんど明らかにされていなかった。
“細胞競合”とは,適応度の異なる同種細胞が近接した際に,適応度の高い細胞が低い細胞を排除する現象をいう。1975年にMorataらによってショウジョウバエの発生期の翅において,野生型細胞とリボソームタンパク質遺伝子の変異細胞が混在した際にのみ変異細胞が排除される現象が報告され,その基本的な概念が提唱された(図1A)6,7)。近年,哺乳類のイヌの上皮細胞(MDCK細胞)8)やマウスの腸管細胞9)などにおいても観察され,遺伝子変異を獲得したがん前駆細胞を排除するなど,細胞集団を最適化する機構としても注目を集め始めている。皮膚や腸管など上皮系の組織幹細胞システムにおいても,造血幹細胞と類似して上皮系幹細胞クローンのサイズの増大とクローン数の減少が知られるようになった。当時は確率論的に引き起こされるとしてニュートラルな(中立的)幹細胞競合であろうとみなされ,そこに適応度の違いに基づく細胞競合が起こっているかどうかは明らかではなかった(図1B)10,11)。一方,Toressらは,マウスの初期胚のエピブラストにおいて,MYCの発現量の高いエピブラストがより低いエピブラストと隣接した際にアポトーシスを誘導して排除していることを明らかにし,初期胚において細胞競合が生理的に起こっていることを報告した(図1C)12)。また,発生初期のマウス表皮においてはMYCNを低発現する細胞は周囲の細胞によってアポトーシスで排除され,更に重層化してくると細胞分化により排除していることが最近報告されている(図1D)13)。つまり,発生中の組織においても細胞競合が生理的に重要な役割を担っていることが考えられる。しかしながら,発生後の上皮系組織や臓器において組織幹細胞が隣接する幹細胞との間で“細胞競合”を引き起こしているのかどうか,またその生理的な意義については不明であった14)。
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