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歴史的経緯
筆者は1986年に慶應義塾大学を卒業し,同病院循環器内科からいわゆる初期研修を始めた.従来,労作性狭心症のため,著しく日常生活を制限された患者さんは,ニトログリセリンを大量に服用して何とか日々を送るか,あるいは胸を開いて静脈グラフトによる冠動脈バイパス手術を受けるか,の治療選択しかなかった.筆者が卒後研修を始めた頃は,経皮的に冠動脈にバルーンカテーテルを挿入し,動脈硬化性狭窄をバルーンにより解除するPTCA(percutaneous transluminal coronary angioplasty)の本邦の黎明期であった.バルーンにより動脈硬化巣を破壊すると,造影上は狭窄が解除されたようにみえる.それでも,血管の解離などにより急性期に冠動脈が急性閉塞する症例が5%程度に認められた.安定労作狭心症の症例は動かなければ何の発作もない.労作時の症状をとってQOLを向上させるはずの治療としてPTCAを行って,急性閉塞による心筋梗塞を発症したのを放置できないのは当然である.これらの症例は緊急冠動脈バイパスを受けることになる.PTCAの施行時には心臓外科医のバックアップと,緊急バイパス手術になる可能性を患者さんが受け入れることが前提であった.
急性閉塞を避けるために多くの工夫が行われ,そのなかからステントが生き残った.PTCAに引き続きステントを挿入し,破壊した動脈硬化巣を内側から支えることにより急性閉塞のリスクは激減した.もともと血栓性の高い動脈硬化巣破綻部位に異物であるステントを挿入するわけであるから,ステント留置後に血栓性は著しく亢進する.実際,適切な抗血小板療法により血栓性合併症をコントロールできるまで,ステント挿入後2週間以内における亜急性血栓閉塞のリスクは5~10%にも達した1,2).亜急性血栓性閉塞は,適切な抗血小板療法が施行されなくてもステント留置の2週間以後に発症することは稀である.バルーンによる動脈硬化巣の破壊,異物であるステントによる血栓性の向上という異常事態は2週間程度で治まるのであろう.ステントの開発はPTCAによる急性期血栓性閉塞の問題を克服するとの意味では大きな歴史的な進歩であった.一方,皮肉な見方をすると,急性期に5%に起こり,外科医の力を借りないと解決できない医原性の合併症の発症時期を2週間ほど後ろにずらし,抗血小板療法という内科医に解決できる問題に置き換えただけで問題の本質は解決されていないとの見方もあり得ると思う.
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