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睡眠時無呼吸症候群(SAS)患者の予後をめぐる最近1年間の話題
睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome;SAS)は成人男性の4%,女性の2%にみられるとされる病態であり,決して稀な疾患ではなく,むしろ比較的commonな疾患である.しかし,これまでSAS患者の予後については十分な検討がなされていなかった.SASの予後を考える時,必ず引用される文献が1988年にChest誌に報告されたHeら1)の検討である.この臨床研究は,apnea index(AI)>20の群は,AI<20の群に比し明らかに予後が悪いことを示し,その予後が,気管切開やnasal continuous positive airway pressure(CPAP)などの治療により明らかに改善されるとした非常にインパクトの強い報告であった.そのため,その後,多くの論文でこの結果が引用されることになったが,研究の質としては決して高いものではなく,現在の水準からみれば多くの問題点がある.それでも,比較的多数のSASを対象とした予後に関する研究は,この他に同時期に報告されたPartinenら2,3)の検討しかなかったため,それ以後のSASの臨床研究に大きな影響を及ぼしてきた.しかし,ようやく最近になり,いくつかの良質な予後に関する臨床研究が発表され,治療の有効性に関しても長期の成績が報告されている.
まず,最近の報告で最も重要な論文は2005年にLancet誌に掲載されたスペインからの報告4)であろう.Marinらは,睡眠ポリグラフ(polysomnography;PSG)を施行した症例を無治療の重症(AHI>30)群235例,軽~中等症(5<AHI<30)群403例,いびき症(AHI<5)群377例,CPAP治療中の重症群372例に分け,さらに重症例と年齢,肥満度を一致させた健常群264例を約10年間追跡し,予後を検討した.その結果,致命的心血管イベントの発症率は,無治療の重症群で1.06/100person-yearと,軽~中等症群の0.55,いびき症群の0.34,CPAP群の0.35,健常群の0.3に比し有意に高く予後不良であった.非致命的な心血管イベントの発症率も同様に,無治療の重症例で他群より有意に高いことが明らかになった.この研究は,比較的多数例を対象として長期間のfollow-upを行い,さらに年齢,肥満度を一致させた健常コントロールをおいた点で極めて優れた臨床研究といえる.その結果は,AHI>30の重症例では無治療で放置すると10年間に約15%が死亡することを明らかにし,さらにnasal CPAP治療がその死亡率を5%にまで低下させ,ほぼ健常者と同等にまで予後を改善させることを明らかにした.今後のわが国のnasal CPAP治療の適応に再検討を促す重要な論文であると考えられる.
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