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Cost-benefitをふまえた高血圧治療に関する最近1年間の話題
近年,急速な高齢化社会の到来によって医療費は高騰し,大きな社会問題となっている.なかでも,高血圧治療に関わる医療費が医療費全体のcost-benefit(費用対効果)に与える影響は極めて大きい.わが国の2000年度国民医療費の総額は30兆3,583億円であり,一般診療医療費を主傷病分類別にみると,「循環器系の疾患」が5兆3,708億円と全体の22.4%と最も多く,65歳以上でみると32.7%を占める1).さらに,循環器疾患のうち高血圧で受診している患者数は739万人(1999年度厚生労働省患者調査2))と,他の循環器系疾患に比べ極めて多い.1999年度の国民栄養調査3)によれば,30歳代では男性24.2%,女性6.9%が高血圧患者であるが,40歳代ではそれぞれ44.3%%と36.8%と急増し,50歳以上になると男女とも半数以上が高血圧患者と推定されており,欧米諸国の調査でも成人の約1/3が高血圧患者と推定されている.さらに,高血圧は心不全,脳卒中,冠動脈疾患といった心血管疾患発症の主要な危険因子の一つであることから,高血圧治療が世界全体の経済対効果に与える影響力は極めて大きいものと思われる.しかし,一方では実際の受診者数となると,我が国の高血圧患者数が3,000万人とも3,500万人ともいわれているのにもかかわらず,本来の患者数の3割にも満たないのが現状である.しかも,受診者でさえも実際に目標降圧レベル(140/90mmHg未満)に達している患者数は,欧米諸国の報告でも10~30%未満と極めて低く,わが国ではその報告さえみあたらない.これらの特徴は,高血圧がいわゆるサイレントキラーであり,標的臓器障害が進展するまで自覚症状がないことが大きな要因の一つになっている.
高血圧治療を費用対効果の立場からみるに当たって考慮する必要がある別の要因の一つは,高血圧患者における血圧管理は通常20数年間以上,あるいは一生の間継続しなければならないことにある.すでに,多くの疫学的研究などの結果から,高血圧が長期に持続すると主要臓器障害を引き起こし,ひいては生命予後に悪影響を与えることが証明されていることから,いかに継続治療して臓器障害の発症と進展を予防するかが,高血圧治療の主たる目的の一つになっている.しかし,現在の高血圧治療ガイドライン4~6)はおしなべて,主に欧米諸国で行われた無作為大規模臨床試験(RCT)の成績を基盤として作成されたため,費用対効果の評価に関しては,血圧を1mmHg下げるのにいくらかかるか,あるいは1年間寿命が延びるのにいくらかかるか,といった比較的単純な解析が中心になっている.これらのガイドラインでは,エビデンスとなるRCTの研究期間が平均5~6年であることから考えると,短期的でしかも初歩的な費用対効果の解析結果しか行われておらず,ここ数年の間に真の費用対効果をふまえたガイドラインが生み出されることは期待できない.
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