Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- サイト内被引用 Cited by
はじめに
近年,長足の進歩を遂げた循環器医学は心疾患による症状の改善のみならず,生命予後の改善と入院頻度の減少という明瞭な効果をもたらしている.1979年以来,宮城県で行われてきた心筋梗塞登録事業1)によると,30日院内死亡率は1979年の18.2%から2002年の6.9%に確実に低下している.また,30日院内死亡に対するprimary percutaneous coronary intervention(PCI)のオッズ比は0.38(0.28~0.52)であった2).当科における植込み型除細動器(ICD)症例72例の致命的不整脈5年再発率は78%であったが,実際の5年死亡率は20%であった.したがって,その差53%の患者38人が救命された可能性がある.このように,本邦においても循環器医学の進歩が明らかに心疾患患者の生命予後を改善している.
しかしながら,このような心疾患患者が年齢を重ねるにつれて,慢性心不全のリスクは上昇していく3).慢性心不全とは全ての心疾患の終末像であるという事実を考え合わせれば,急性期循環器治療の成功は,皮肉にも,慢性心不全患者の増大を引き起こしていることになる.世界でも類をみない速度で高齢化社会に移行してきた本邦において,慢性心不全の治療は,国民健康の視点のみならず,医療経済の観点からも極めて重大な問題となっている.米国においては,過去20年間で心不全による入院者数は2.5倍に,また,死亡者数は1.5倍に増大している.この結果,心不全による死亡者数は26万人/年,入院者数は100万人/年,有病者は250万人に達し,その医療費は36億ドル(4,000億円)/年と報告されている4).
一方,本邦にはこのような慢性心不全の正確な統計は存在しない.疾患の基本的な統計は,医療政策の決定や臨床研究を企画立案する際の倫理性と合理性を保証するだけではなく,実際の診療結果を検証する意味でも必要不可欠である.さらに,無作為臨床研究の施行が容易ではない本邦においては,これに代わる大規模な前向き観察研究が本邦独自のエビデンスにつながる可能性がある.
われわれは,2000年から18都市,26病院との連携のもとに,東北慢性心不全レジストリー(Chronic Heart Failure Analysis and Registry in Tohoku District,CHART)を組織し,これまでに1,200例の慢性心不全症例を登録してきた5).このデーターベースによると,左室駆出率(EF)>45%,あるいはEF>50%を示す慢性心不全症例は全体のそれぞれ約40%,あるいは30%を占める.しかしながら,拡張不全患者に対する治療のエビデンスは,ほとんど存在していない.近年,この領域の研究が精力的に進められている.
本稿では,拡張不全に関する最近のトピックスと,CHARTのデータを基にした本邦における拡張不全の実態,およびその治療戦略について概説する.
Copyright © 2004, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.