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はじめに
心不全には急性心不全と慢性心不全があり,急性心不全は心機能不全により急激に血行動態が破綻し,末梢循環不全や呼吸困難などの症状が出現するものである.一方,慢性心不全は,全ての心疾患の終末像の一つとして,心機能の低下による運動制限やうっ血症状,神経内分泌系の異常を主徴とする症候群である.血管内皮機能低下による心負荷増大や自律神経系・神経体液性因子の異常から臨床症状の増悪を来しており,治療においてはこれら血管内皮機能・自律神経系・神経体液性因子の異常を改善させることが重要である.
アンジオテンシン変換酵素阻害剤やβ遮断薬,抗アルドステロン薬などの薬物療法により,慢性心不全の予後が改善することは周知の事実であるが,それらの薬剤を使用しても慢性心不全患者の予後は十分とはいえない.そこで,心不全に対する様々な非薬物療法が検討され,その有効性と適応が検討されている.
最近まで心不全は安静が原則であり,心臓リハビリテーションの中心的役割を担っている運動療法は,主に長期臥床によるデコンディショニングを予防する目的で行われてきた.しかし,欧米では,わが国より早く心不全患者に対する運動療法の有用性に関する研究が数多く実施されてきた.その結果,運動療法は安定した心不全患者において安全に施行することが可能であることが示され,その有効性も確立されている.わが国においても,2002年に日本循環器学会から心疾患の運動に対するガイドラインが発表されている.心不全においては,運動耐容能が低下することにより生活制限が必要となってくる.それに対し,心不全に対する運動療法の主たる効果は運動耐容能の増大であり,それにより生活の質が改善する.その他にも様々な効果が期待できる.自律神経機能のアンバランスを是正することにより不整脈が減少し,血管内皮機能を改善させ,骨格筋の性状を正常化させるなど,多彩な効果を生み出す.さらに,運動療法による慢性心不全患者の生命予後の延長も報告されている.
一方,運動が心不全に対して不適当と考えられていたように,健常者にとっては心身のリラックス効果や疲労回復にも有用である温水浴・サウナ浴も心不全には不適で,特に重症心不全では禁忌とされてきた.われわれは,1989年より非薬物性血管拡張作用を有する温浴に注目し,心不全患者に対して禁忌と考えられていた入浴を,いかに安全に行えるかを検討し,入浴処方を確立した.そして,温熱療法の心不全症状や心血管機能,自律神経や神経体液性因子などに及ぼす効果を検討して,心不全に対する温熱療法の効果を明らかにしてきた.
本稿では,われわれが行ってきた温熱療法と,その心臓リハビリテーションにおける位置付けに関して概説する.
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