巻頭言
医の倫理―再考愚考
中西 洋一
1
1九州大学大学院胸部疾患研究施設
pp.683
発行日 2006年7月1日
Published Date 2006/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404100421
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医における倫理規範は,ヒポクラテスの誓いに始まり,時代とともに若干の変遷があるもののその基本精神は不変である.「人命尊重を大原則とした患者本位主義」ならびに「医療の平等性・公平性・中立性」の2つが大きな柱であり,その妥当性に対して疑問をはさむ余地はない.しかし,われわれは哲学者でも思想家でもない.医家である.各論が求められている.現場の状況に即した倫理規範を持つ必要,それを粛々と実践する必要に迫られている.とりわけ,実地医療の現場において混乱がみられるのは,「終末期医療」と「インフォームド・コンセント」の問題であろう.きわめて身近な問題であるにもかかわらず,われわれ医師自身の「価値基準」が揺らいでいるからである.
回復が期待される時期に必要とされるものが医術とすれば,終末期において必要となるのは手当である(手当のなかには無為の実行-すなわち,過剰な治療の中止も含まれる).だが,一人の患者を前にした時,この医術から手当への軟着陸がけっして容易ではない.なぜなら,医師相互の感覚も違うし,医師個人のなかで揺れ動くこともあり,また患者やその家族相互でも価値観が異なるからである.富山県での人工呼吸器取り外し事件がその典型例である.この事例の是非については司直,医療界,社会の判断に任せるとしても,医師としてみた場合,現場の苦悩は手に取るように感じることができる.救いとは何か,倫理とは何かを考えた時に,現場の医療関係者,家族,社会を含めてあらゆる場所で価値観の違いや揺らぎがある.
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