- 有料閲覧
- 文献概要
医療は,人が少しでも健康で長生きしたいという本能のもとに成り立っている.第二次世界大戦までは,人は長生きできる保証はほとんどなく,そのチャンスを得るために,まず,食料確保が必須であった.しかし,ここ一世紀の間に多くの科学的な発見がなされ,それは社会に大きく貢献し,現在,医学の世界でも応用され,すぐれた医療が成り立っている.ワクチンの開発やペニシリン等の抗生物質,抗結核薬の開発で感染症による死亡数が激減し,その後,多くの薬剤や検査機器の開発,分子遺伝生物学の発展によって医療の質が向上し,死亡数が減少している.現在,日本は健康においては幸福な結果を得ているが,高齢化社会になり,栄養過多によるメタボリックシンドロームや生活習慣病が医学的にも社会的にも問題になっている.
このようなめざましい環境変化の結果,高齢者の疾患が表面化してきた.高齢者の疾患は,癌や認知症が代表格であり,呼吸器疾患では,誤嚥性肺炎,COPDであり,循環器疾患では,冠動脈疾患が代表格であろう.高齢者の診療にあたり,年齢とともに一部の臓器あるいは細胞の機能が選択的に落ちるために発症する疾患がある.認知症は認知に関する脳細胞が選択的に機能低下する疾患であり,癌は細胞の自己制御機能が低下する疾患である.また,誤嚥性肺炎は,咽頭・喉頭機能と咳反射経路がともに機能低下する疾患であり,COPDは,喫煙による気道障害と肺胞破壊が年齢的機能低下に重なった疾患である.このように高齢者の疾患は,臓器や細胞機能が一部だけ強く低下して,臓器機能のアンバランスが生じるために発症しているとも考えられ,思いつきの名称ではあるが,「臓器機能アンバランス症」とも言える.
Copyright © 2007, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.