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近年,Evidence based medicine(EBM)という言葉が花盛りである.一般にEBMを確立するためには大規模臨床試験が必要となってくる.循環器領域においても,欧米では数多くの大規模介入試験が行われている.しかし,日本においてはEBMの根拠となるような大規模無作為比較試験は欧米に比べて極めて少ないと言わざるを得ない.日本人は欧米人とは,その病態,予後,さらに治療に対する反応などが異なる.したがって,日本におけるEBMが必要になってくる.
われわれは,1994年からJAMIS(Japanese Antiplatelets Myocardial Infarction Study)を開始した.これは日本人の急性心筋梗塞に対して抗血小板薬の効果を検討した臨床研究で,日本での急性心筋梗塞に対する大規模無作為比較試験としては最初のものであったと思われる.泰江弘文前教授が主任研究者となり,事務局は私が責任者となった.3年間かけて全国から744例の急性心筋梗塞を登録いただき予後調査を含め成績をまとめるまでに5年間を要した.登録割付から予後調査用紙回収まで,事務的な手伝いをしてくれた一人の女性と二人での作業はほとんどが手作業で,特に休日,土曜日,日曜日に登録,予後調査の回収,質問が多く,これらの日は全く一人でやらなければならず,本当につらい日々であった.しかし,もっとつらかったのは,最近と違ってこの頃はこのような臨床研究は全く評価されず,来る日も来る日もファックスの番と登録病院への電話に時間をとられ,自分としても循環器研究から取り残されていくような気がしてむなしかったことである.義務感だけで行った研究であったが,日本人においてもアスピリンによる急性心筋梗塞再発予防効果が証明され,アスピリンの急性心筋梗塞に対する保険適用の承認が得られたのである.後に第一線病院の循環器内科医からJAMISのお陰でアスピリンが堂々と使えるようになり治療上に大きく役立ったとほめられた時は,それまでの苦労が吹っ飛んだ.さらにJAMISを論文に出した時に欧米のレビューアーから指摘されたのが,日本人の急性心筋梗塞後に欧米のガイドラインで推奨しているβ遮断薬の使用頻度が少なく,むしろエビデンスレベルの低いCa拮抗薬が高頻度で使われているのは問題であるというコメントであった.
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