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はじめに
気道は中枢の気管と末梢の気管支・細気管支によって構成されるが,外科的な再生(再建)は気管支までが対象になる.気管支よりさらに末梢の細気管支や肺胞レベルの再生は内科治療の対象である.
外科的な気管再建の対象となる疾患は,悪性腫瘍の気管浸潤や外傷,気管内挿管チューブのカフによる瘢痕狭窄などである.こういった疾患に対して,病変部を切除してゴム管などの人工物で欠損部を再建しようとする試みが1940年代より始まった1).しかしながら,人工血管の開発成功とは対照的に,人工気管開発は遅れ,現在も市販されている人工気管はないのが現状である.
一方,高分子材料による生体内吸収性縫合糸をはじめとする外科用手術材料の進歩に伴い,気管外科学は第2次大戦後1970年代から大きく発展した.米国ハーバードのGrilloのグループは6cm以下の気管切除に際しては端々吻合で気管再建が可能であることを確かめた.以来,気管の端々吻合は気管外科の標準術式となっている.しかし,広範囲の切除では気道の広範剥離と肺門の授動が必要であり,端々吻合ができない症例も多い.また,従来の気管端々吻合術では患者は術後の1カ月にも及ぶ苦しい頸部前屈位の保持を強いられるなど負担が極めて大きかった.しかも左の主気管支狭窄などは再建不能であり,臨床で安全に使用できる人工気管の必要性は依然として少なくない.
アメリカを中心とする諸外国のグループは人工気管開発を断念してしまった一方,日本では上皮が再生する新しいタイプの人工気管の開発が進められた.この自己組織再生型人工気管は,気道の再生治療として世界にも他に例がない.本稿では,この自己組織再生型人工気管の開発の経緯と現状について述べる.
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