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はじめに
急性冠症候群(ACS;acute coronary syndrome)とは,冠動脈病変の急激な変化により,血管内腔が狭窄または閉塞することによって心筋虚血が惹起される病態で,不安定狭心症,急性心筋梗塞,心臓突然死などが含まれる.心筋虚血の持続時間が長い場合は心筋壊死に陥り,心筋梗塞と診断され,最も重篤な例が心臓突然死といえる.一方,心筋壊死がない場合が不安定狭心症である.病理学的には,冠動脈プラークの破裂とそれに引き続き生じる血栓形成によって引き起こされる.心筋壊死とは,心筋トロポニン(TおよびI)の上昇をもって診断され,発作時ST変化より,ST上昇型ACS(ST上昇型心筋梗塞)と非ST上昇型ACS(不安定狭心症・非ST上昇型心筋梗塞)に大別される.
Braunwald1)は,ACSの原因を1)プラークの破裂やびらんとそれに引き続き生じる血栓形成,2)冠攣縮などによる動的,機能的血流障害,3)動脈硬化症進展に伴う進行性血流障害,4)感染症,炎症反応の関与,5)心筋酸素需要の増加を来す病態の存在(発熱,貧血,頻脈,甲状腺機能亢進症,低酸素血症など)などの単独あるいは相互作用を唱えている.
病理学的にはいわゆる不安定プラーク(vulnerableplaque)の破裂とプラークびらん(plaque erosion)に引き続き生じる冠動脈内血栓形成が基本病態といえる.ここにいう不安定プラークとは,1)大きい脂質コア,2)マクロファージ,Tリンパ球,好中球といった炎症細胞の浸潤,3)外因系凝固反応の中心的役割をはたす組織因子が広範囲に発現している,4)薄い線維性被膜などを特徴とする.最近,Narukoら2)は,プラーク破裂・びらん部位に好中球の浸潤が多数観察されることに着目した.かかる炎症性細胞は,ミエロペルオキシダーゼ(強力な酸化物質であり,酸化LDLの産生に直接関与している)陽性であることから,マクロファージ,Tリンパ球のみならず,好中球が直接プラークの不安定化に関与している可能性が示唆される.
また,Mizunoら3)は,血管内視鏡を用いてACS患者の冠動脈内を直接観察した.その結果,ST上昇型急性心筋梗塞では完全閉塞型赤色血栓(血小板・フィブリノーゲン・赤血球より成る)を形成し,病理学的に貫壁性梗塞に進展するのに対して,非ST上昇型心筋梗塞・不安定狭心症の場合には,不完全閉塞型白色血栓(主に血小板より成る)を形成することが判明した.
したがって,ACSの発症にはプラークの破裂と冠血栓形成が深く関与している.
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